教養・歴史アートな時間

生々しい肉体の薄気味悪さを描き大正画壇を席巻 映画界では衣装デザインで活躍 石川健次

《春宵(花びら)》1921年ごろ、京都国立近代美術館
《春宵(花びら)》1921年ごろ、京都国立近代美術館

美術 甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性

 ギョッとした人は少なくないだろう。図版の作品に、だ。異様、薄気味悪いなど、私もかつて初めて見たときには顔をしかめた記憶がある。今回も同様の印象は否めない。理想美を描くのではなく、美醜相半ばする人間の生々しさを巧みに描写した、と本展図録で紹介されているような作家の思い、作品の背景を知ってはいても、だ。

 甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)(1894~1978年)は、大正から昭和初期にかけて、特異で革新的な女性像でとりわけ知られる日本画家だ。浮世絵など伝統的な美人画を受け継ぎ、西洋由来の写実も融合した甲斐荘は、見た目が美しいだけにとどまらない、人間の肉体の生々しさを迫真的な描写で実在感あふれる姿に描く一方、その内面に深く分け入ろうと試みた。

 図版に挙げた作品に私が抱いた異様、薄気味の悪さは、美しい装いの下に隠された人間の本性、計り知れない心の奥深くを垣間見たゆえかもしれない。

 本作をはじめ、京都市立絵画専門学校(現・京都市立芸術大学)在学中に描いた初期の傑作で妖艶な笑みが印象的な《横櫛》、戦後日本の代表的な美術史家が「『濃いデカダンな雰囲気ながら、その実体を把握しようとして止(や)まない』表現に衝撃を受けた」(本展図録)という《舞ふ》など、本展には甲斐荘の代表的な作品がそろう。妖艶もデカダン(退廃的)も、画家が計り知れない人間の心の奥深くをのぞいた証しとも言えようか。

 それらの作品に共通する、おしろいを厚く塗った肌の感じや着衣に隠…

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