吹きさらしの空間に怯まない猫 風通しのよいドキュメンタリー 芝山幹郎
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映画 猫と、とうさん
古くは「ハリーとトント」(1974年)があった。最近ではイスタンブールの裏通りで撮られたドキュメンタリー映画「猫が教えてくれたこと」(2016年)があった。猫を主役に見立てた佳篇は少なくない。個性的な脇役として猫を際立たせた映画はさらに多い。
豊田四郎監督の「猫と庄造と二人のをんな」(1956年)では、主人公の森繁久彌が猫のリリーに隷属していた。コーエン兄弟が撮った「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)では、部屋から逃げた猫に振りまわされる主人公オスカー・アイザックの姿が眼に焼きついた。
まだまだあるが、切り上げよう。マイ・ホンが監督した新作ドキュメンタリー「猫と、とうさん」にも、思わず頬をゆるめたくなるシーンが出てくる。
映画の舞台は、アメリカ各地である。猫の飼い主は、ノースハリウッドの俳優、オークランドのソフトウェア・エンジニア、ノースキャロライナ州の消防士、ニューヨーク市の路上生活者、アリゾナ州のトラック運転手、アトランタのスタント・パフォーマーなど多岐にわたる。
題名が示すとおり、彼らは「キャット・ダディ」だ。「猫には、人に世話をさせる天性が備わっている」とつぶやきながら(ときにはぼやきながら)猫の面倒を見つづける。あるいは、猫に共生してもらうことで、自分自身の心の平衡を保っている。両者の間に、「操作」とか「契約」とか「支配」とかいった観念は入り込まない。もっと自然発生的な合意の上に立って、両者は支え合い、慈しみ合う。
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週刊エコノミスト
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