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米金融市場はインフレの“沈静化”を見越し、FRBはインフレの“持続性”を重視 小野亮
米労働省が7月12日に発表した6月の消費者物価指数(CPI)は、コアCPI(エネルギーと食料品除く)上昇率が前月比0.2%と市場予想の0.3%を下回り、7カ月ぶりに0.4%ラインを割り込んだ。これを受けて、金融市場は米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が目指す「景気後退なきインフレ沈静化」見通しの実現に、一段と期待を強めているようだ。
6月のコアCPI上昇率は、前年同月比でも4.8%と、1年7カ月ぶりに5%を下回った。同13日に発表された6月の米生産者物価指数(PPI)も、市場予想を下回る落ち着きを見せた。市場では米株高・金利低下・ドル安が進行し、「米利上げの終焉(しゅうえん)近し」との期待が表れている。とはいえ、次回7月25、26日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.25%の利上げに踏み切る公算が大きい。
7月5日に公表された6月会合の議事要旨によれば、経済見通しの上方修正を踏まえ、「ほとんど全ての参加者が、追加利上げが適切と考えている」ことが示され、「今後の追加情報が、適切な金融政策を検討する上で重要」という意見が大勢を占めた。そして、6月会合以降に発表された「追加情報」としての経済統計は、軒並み強めのデータが出ている。
中でも、6月の雇用統計は、時間当たり賃金上昇率が前月比0.4%と予想を上回り、賃金インフレ圧力の高さを示した。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)によれば、金利先物市場が織り込む9月以降の政策金利は、9月は据え置き、11月に再び0.25%の利上げが予想されている(7月14日時点)。7月と合わせて0.5%の追加利上げ予想は、FOMCと一致する。
持続性を「無視」
しかし、その後の米金融政策を巡っては、FOMCと市場との間に無視できない乖離(かいり)が生じている。市場は12月会合以降、利下げ局面に入ると予想し、24年末の米政策金利予想は3.6%となっている。一方、FOMCメンバーの予想中央値は4.6%で、市場とは1%の差がある。どちらが正しいのか。FRBの6月のリポートによれば、利上げによる米景気への影響は、年末にかけて本格的に表れるという。
もし、その結果、今回のようなインフレの鈍化が続けば、市場の見方は正しいことになる。コアCPI上昇率は23年末に前年同期比3.2%となり、24年前半にはFRBが目標とする2%への低下が視野に入る。
しかし、これはインフレの先行きに対してあまりに楽観的な見方だろう。
FRBが7月に発表した別のリポートは、インフレには持続性があり、その点に重きを置いてインフレの先行きを予測することの重要性を示した。リポートでは、民間エコノミストの平均的な予測はインフレの持続性を無視する傾向がうかがえ、その結果、22年は予測が大きく外れたという。
(小野亮・みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部プリンシパル)
週刊エコノミスト2023年8月1日号掲載
FOCUS 米国のインフレ率鈍化でも FRBと市場で見通しに相違 次回は0・25%利上げの公算 小野亮