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メタの新SNS「スレッズ」1週間弱で1億登録を突破 岩田太郎
世界でおよそ4億人の月間ユーザーを誇る短文投稿ソーシャルメディア(SNS)の代表格である米ツイッターに、強力なライバルが登場した。SNS世界最大手フェイスブックやインスタグラムを傘下に抱える米メタが7月5日に立ち上げた「スレッズ」だ。
数百字の短文を投稿する基本機能はツイッターを丸ごとまねており、写真や動画、ウェブのリンクを添えることもできる。参加者が一つの話題の会話に集中できるスレッドや、他のユーザーの文章をそのまま再投稿する機能なども、同じ。
サービス開始から1週間を経ず登録者が1億人を突破し、米メディアは間もなく2億~3億人に達すると予想する。1億人の達成に、生成型人工知能(AI)のチャットGPTが2カ月、ショート動画投稿アプリTikTokが9カ月、インスタグラムが2年以上を要したことと比較して、初速の勢いは驚異的だ。
なぜ、ここまで人気が出たのか。競合のツイッターの「敵失」が大きいとの解釈が支配的だ。ツイッターは昨年10月に著名起業家のイーロン・マスク氏に買収されて以降、同氏のお騒がせな綱渡り経営に不安を抱く広告主の出稿が大幅に減少し、頻繁に閲覧仕様や料金体系が変更され、今年7月時点でアクセス数が1年前と比較して11%減少していた(米分析企業シミラーウェブ調べ)。
この機に乗じたのが、メタの最高経営責任者(CEO)で、従前からマスク氏と犬猿の仲にあるマーク・ザッカーバーグ氏。20億人の月間ユーザー数を誇る画像投稿SNSのインスタグラムを、スレッズという短文投稿型に改良・発展させた。攻撃性が高い投稿が多く、政治的な対立も激しいツイッターとの差別化を図り、「より穏やかな会話の場を提供するのが目的」だ。
一方で、登録者が日常的にサービスを利用するユーザーになってくれなければ、安定した広告収入が確保できない。多くの登録者は、「急ごしらえの感があるスレッズには、キーワードやトピックを分類するハッシュタグがない」「相手に直接メッセージを送れる機能が欲しい」と訴えており、メタがそうした声をくみ上げてサービスを改善させていくことが課題だ。
80億ドルの業績貢献
独立系投資銀行アドバイザリー企業のエバコアISIは7月10日、スレッズが広告を中心に、この先2年間でメタの業績に80億ドル(約1兆1000億円)の貢献をするとの予測を発表した。メタ全体の22年12月期の売上高1170億ドル(約16兆4000億円)から見れば7%にも満たないが、暗号資産「リブラ」や、仮想現実空間「メタバース」の立ち上げが期待通りに進まず、22年11月から2万1000人の従業員を削減したメタにとり、干天の慈雨となり得る。
スレッズが「ひょうたんから駒」になるのか、三度目の正直に懸けるザッカーバーグ氏の経営手腕に世界が注目している。
(岩田太郎・在米ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2023年8月1日号掲載
FOCUS ツイッターに対抗 「スレッズ」驚異の成長速度 メタ「三度目の正直」なるか=岩田太郎