身体能力と演技力で奏でる傑出したボクシング映画の誕生 野島孝一
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映画 春に散る
私は常々「潜水艦映画とボクシング映画に、はずれなし」と言っている。潜水艦は内部が狭く、逃げ場のない恐怖心が映画に緊張感をもたらす。ではボクシングはどうか。ボクシング映画は、ごまかしがきかない。ボクサーは裸なので、動きは一目瞭然。観客がちょっとでもおかしいと思ったら、もうまともには観てもらえない。だからボクサー役の俳優は、撮影前に相当な鍛錬をしてボクサーと同じような筋骨と素早い動きを身に付けなくてはならない。その準備だけで、数カ月かかることもある。
この映画もボクシング映画の範疇(はんちゅう)に入るが、なかなかよくできている。沢木耕太郎の小説を瀬々敬久監督が手堅くまとめた。
居酒屋で若者たちに静かにしろと注意した初老の男・広岡(佐藤浩市)が、店を出た路地で数人の若者にからまれて襲われる。だが、あっという間に倒してしまう。広岡は元ボクサーで、アメリカで納得のいかない判定負けをして引退後、ホテルのオーナーになり成功した。その後、ホテル業から身を引いて日本に戻っていた。
偶然この場に来合わせた翔吾(横浜流星)も判定負けに不服でボクシングをやめた男。鬱々としていたのだが、乱闘での広岡の動きを見てボクシングの達人と直感し、広岡に挑みかかるが、一発で倒される。
広岡は昔所属していたボクシングジムを訪ねる。会長の娘・令子(山口智子)にボクサー時代に同じ寮で暮らしていた佐瀬(片岡鶴太郎)らの行方を訪ねる。零落した佐瀬や刑務所を出た藤原(哀川翔)に再起を呼び掛ける広岡。翔吾は弟子入り…
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週刊エコノミスト
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