尾道舞台の人情喜劇 ただし主演は82歳 裏テーマは原爆 寺脇研
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映画 高野(たかの)豆腐店の春
黙々と豆腐を作り続ける頑固じいさんが主人公だ。「出戻り」の一人娘と営む豆腐屋を中心に、人間味あふれるコメディーが展開されていく。「男はつらいよ」が代表する日本の娯楽映画の王道に連なると言っていい。しかも場所は、小津安二郎監督の名作「東京物語」をはじめ数多くの作品を生んで「日本映画の聖地」とさえ呼ばれる尾道市(広島県)なのだから、多くの観客の琴線に触れること請け合いだろう。
そして、主演は今年82歳になる藤竜也。今年5月公開の「それいけ!ゲートボールさくら組」に次ぎ、80代の俳優が立て続けに主演作を出すのは前代未聞のはず。今作でも、かくしゃくたる姿を見せてくれる。五十数年前からスクリーンで見てきた名優が相変わらず元気なのはうれしい。しかも、不器用でほほえましい高齢者同士のロマンスまで繰り広げてくれるのだ。
娘の再婚相手を探してやろうとする父と、ちゃんと自分で見つけてくる娘との行き違いも、いかにも日本の家族関係ではないか。愛想なしの口下手な父、しっかり者の娘のコントラストは定番だ。周囲のおせっかいな友人仲間の存在も、昔から地域社会には付きものだった……と、窮屈な世の中に疲れてしまいがちな当節、昔の風情や人情に心動かされるのは無理もない。
ただ、父は70代後半、娘はアラフィフという辺りに高齢化が、商店街の寂しさに過疎化が反映されているのは「平成が終わりを告げるころ」という時代設定におけるリアリズムだ。
実はこのテーマ、藤竜也主演、三原光尋監督による3部作…
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週刊エコノミスト
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