AIで乳がん早期発見を促進――山並憲司さん
Smart Opinion代表取締役社長 山並憲司
エコー検診時の画像判断をより確実なものにし、気軽に検診できる環境を整えたい。
(聞き手=永野原梨香・ライター)
乳がんは早い段階で見つけて治療すれば、治る可能性の高い病気です。そのためには検診時に疑わしいものを見落とさず、精密検査に回すことが大事です。開発した乳がん向け乳房超音波画像AI診断支援ソフトウエアは、乳房の超音波検診(エコー検診)の画像を瞬時に解析して、精密検査をすべき箇所を示してくれるものです。
現在、医療機器として使っていいかどうか、承認待ちです。年内には承認されると考えており、3~5年で20億円程度の売り上げを目標としています。現状のエコーは、疑わしいもの全てを精密検査に回すか、「これは大丈夫だろう」と回さないか──。この判断は検査を担当したお医者さんの経験によるところが大きい。このソフトウエアを使えば、精密検査をすべき箇所かどうか、ほぼ見分けることができます。ですが、お医者さんは、それ以上のものが見られるのも事実。ソフトウエアが問題はないと判断した画像でも、既往歴や家族の病歴からお医者さんが判断した結果、精密検査した方がいいケースもありました。AI(人工知能)とお医者さんが総合的に判断することが大事です。
これまで経済産業省、マッキンゼー・アンド・カンパニー、楽天などで働いてきましたが、もともと大学院では医療と人工知能に関する研究をしていました。働くことの根底にあるのは「人や、社会のために」という思い。就職先に経産省を選んだのも山一証券が破綻した頃で、バブル崩壊後の経済を立て直したかったからです。
楽天で米国に赴任していた頃に、母親が乳がんになりました。もう10年がたちますね。早期に発見されたため治療でき、今も生きています。その際にお世話になり、旧知の仲でもあった慶応義塾大学病院の乳腺外科の林田哲先生らと話をするなかで手ごたえをつかみ起業。乳腺、AIなど各分野の経験豊富な人の力を集めて、今回の開発に至りました。
40代は気軽に検診を
乳がん検診=マンモグラフィーというイメージがあるかもしれませんが、マンモは転移しない石灰化したがんを見つけるのが得意だといわれています。また、デンスブレストといって、乳腺の発達などにより乳房が白く映ることがあります。そうすると、疑わしい箇所を見分けにくくなります。エコーは転移の可能性のある、腫瘤(しゅりゅう)といって水風船のようながんを見つけることが得意。デンスブレストの問題もありません。乳がんが増え始める40代では半数以上がデンスブレストだともいわれていますし、エコーの必要性は高いのです。
日本の乳がん検診率は約40%。エコーを気軽にできる場が必要でしょう。例えば、温泉施設。温泉ついでにエコーができたら、検診する人も増えるのではないでしょうか。そして、このソフトウエアで、より確実な検診もできる。そういう時代が来るといいなと思っています。
さまざまなキャンペーンを通して女性の方への認知度を上げる工夫もしていきたい。技術の力で自分の健康を担保できる時代になってきている──。そういう声を届けていきたいです。
企業概要
事業内容:乳がんエコーAI診断支援サービスの開発、患者サポートプログラムの提供
本社所在地:東京都港区
設立:2019年10月
資本金:2億円(資本準備金含む)
従業員数:5人
週刊エコノミスト2023年9月5日号掲載
山並憲司 Smart Opinion代表取締役社長 AIで乳がん早期発見を促進