子供の体育にも広がる米国のスポーツ・デバイド 小林知代
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今春、ワシントンDCにあるアフリカ系アメリカ人の名門大学、ハワード大学が、北東部大学競泳大会で35年ぶりに優勝するというニュースが全米の話題となった。
15年間連続して惨敗したチームは一時は、閉鎖の危機にさらされたほどだった。「黒人は水泳が苦手」との固定概念を覆した快挙は、スポーツにおける「包摂的社会」を目指す米国にとって意義深い勝利だったといわれる。
米国で「水泳は白人のスポーツ」と言われてきた背景には、歴史的な差別の結果、黒人にはプールの入場が制限されていた▽黒人は泳げないという偏見があった▽親が泳げないため子供に教えなかった▽その結果、競泳に参加する若い黒人層が少なかった──ことなどが挙げられる。YMCA(キリスト教青年会)によると、泳ぐことを習得しなかった黒人が多いことから、黒人が海で溺れる確率は白人よりも高いという。
髪の毛の問題もあった。黒人の、特に女性は特別な髪の処理をしていることから、塩素を含むプールに入ることを敬遠していた。最近、黒人のための水泳帽が開発されたが、大きすぎたり、かぶると頭の形に沿っていなかったりという理由で、国際水泳連盟は着用を認めていなかった。世論の強い反対により、一転して昨年秋に正式に承認されたことも追い風となり、黒人の水泳選手が大会で活躍する機会が増えてきたという。
マイノリティーのスポーツ参加をめぐる問題は、水泳に限ったことではなく、サッカー、野球、バスケットなどの人気のある競技にも広がりつつある。最近では「デジタル・デバイド(格差)」ではなく、「スポーツ・デバイド」と呼ばれる現象が社会問題となっている。米疾病対策センター(CDC)の2020年のデータによると、若年富裕層(年間所得10万5000ドル=約1500万円)のスポーツ参加率は低所得者層の4倍以上であり、その差は年々広がりつつあるという。
低所得者は締め出され
スポーツ・デバ…
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週刊エコノミスト
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