外資と移民という“成長エンジン”失い「英国病」再発の兆しも 木村正人
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英国の時事週刊誌『スペクテイター』(電子版、8月9日付)は英シンクタンク、国立経済社会研究所(NIESR)の経済見通しをもとに「英国、5年間の経済成長を失う恐れ」と伝えている。新型コロナによる数百万人の労働力減、欧州連合(EU)離脱による低賃金移民の締め出し、ウクライナ戦争によるモノ不足、インフレ対策の金融引き締めの「四重苦」が原因だ。
インフレ率は今年末で5.2%、来年末には3.9%に低下するとNIESRは予測。だがエネルギー・食品を除くコア・インフレ率は6.9%と高く、「インフレ率は予測を上回る恐れがある」と警戒する。現在5.25%の英中銀・イングランド銀行の政策金利は最大5.5%まで引き上げられ、失業率は来年4.7%、2026年には5.1%まで上昇する見込みという。
今年の国内総生産(GDP)成長率は0.4%、来年は0.3%と予測されるものの、先行きは不透明だ。今年末にはGDPが縮小する恐れもある。来年末に景気後退に陥るリスクは約60%だ。GDPがコロナ前の19年10~12月期の水準に回復するのは24年7~9月期。英国はまさに「失われた5年」をさまよっている。
住宅費・エネルギー費・食費の上昇により多くの世帯で実質所得が伸びず、所得分布の下位世帯の実質可処分所得は「失われた5年」の間に約17%も少なくなる。同誌は「景気後退は『もし』から『いつ』の問題になってきた。景気後退を回避するにはビジネス優遇税制、医療サービスの向上など公共政策の改革が急務」と指摘する。
英国民医療サービス(NHS)は税金と国民保険料で運営され、原則無償だが、5月末時点でイングランドだけで待機患者は750万人に近い。子どもは41万6000人で、2万1000人以上が1年以上も待たされている。医師や看護師は賃上げを求めてストを打ち、医療サービスの窮状が労働者を疲弊させ、生産性を低下させている。
英国…
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週刊エコノミスト
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