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KDDIとスペースX提携 来年には海でも山でもスマホ可能に 石川温
KDDIが2024年中にスマートフォンと衛星との直接通信を開始する。現在は人口カバー率、全国99.9%で通信サービスを提供しているが、衛星との直接通信で事実上、全国100%、離島や山間部、海上などでもスマホが使えるようになる。
実際に衛星を飛ばしているのは電気自動車「テスラ」の創業者で、最近はTwitterを買収してX(エックス)に改称した、イーロン・マスク氏が手がける米衛星会社スペースXによるものだ。同社ではすでに5000基以上の衛星を飛ばし、世界中で通信サービスを手がけている。
今回、KDDIはアジア初のパートナーとしてスペースXと業務提携を行うこととなった。
ライバルを先回り
実は衛星サービスに対しては、第4のキャリアとして携帯電話事業に参入した楽天モバイルが、計画を立てていた。米国の衛星ベンチャーであるASTに出資を行い、24年以降に日本でサービスを提供し、全国カバー率100%を既存3社に先駆けて実現しようとしていた。そこに先んじてKDDIがスペースXとの協業を発表し、話題をかっさらってしまったのだ。
ちなみにソフトバンクは、すでに英通信サービス会社OneWebに出資している。さらに、子会社HAPSモバイルが、上空20キロメートルを飛行機が旋回して、空からスマホが通信できる電波を飛ばす実験を米国などで続けている。ただ、太陽光発電で旋回し続ける飛行機を開発するには技術的なハードルは高い。
また、NTTは、スカパーJSATと組み「スペースコンパス」という会社を設立して、ソフトバンクと同様にHAPSという飛行機を日本上空に25年に飛ばそうとしている。
ただ、スペースXが強いのは、衛星を宇宙に上げるロケットを自社で持ち、飛ばしっぱなしではなく、地球に戻ってきて、繰り返し使い続けられるという技術を持っているからに他ならない。そのため、これまで250回以上、ロケットを飛ばし、そのうち190回は再利用だった。世界レベルでしかも低コストで通信サービスを提供しているのが強みなのだ。
楽天モバイル、ソフトバンク、NTTはいずれも一から宇宙ビジネスを立ち上げているため、技術開発に時間とコストがかかってしまっている。
そんな中、すでに成功を収めているスペースXといち早く提携にこぎ着けたKDDIは、24年には競合他社にかなり先んじて全国100%のカバー率を達成できる。単なる「値下げ競争」から脱し、ネットワーク品質によって顧客獲得につなげることができそうだ。
(石川温・スマホ/ケータイジャーナリスト)
週刊エコノミスト2023年9月19・26日合併号掲載
FOCUS スペースXと提携 KDDI、衛星とスマホの直接通信を開始=石川温