スタグフレーション色が強まる欧州経済 渡辺浩志
欧州経済が振るわない。企業部門が弱く、その背景には半導体需要の循環的な減少による世界貿易の縮小(輸出の停滞)がある。また、インフレ退治の金融引き締めに伴う金利上昇が、住宅や生産設備の投資採算を悪化させ、建設業や製造業の経営を圧迫している。
特に、大黒柱のドイツの不調が際立つ。ドイツ経済は製造業への依存度が高く、輸出や固定資産投資の不振の影響を受けやすい。さらに、中国景気の停滞や、西側諸国が経済安全保障の観点から脱中国依存を進めていることも、中国との交易関係が深いドイツの輸出の回復を妨げている。
そのため、欧州企業の資金需要は過去最低レベルへと減退しており、この先の経済が大幅なマイナス成長に陥る可能性を示唆している(図1)。
こうしたなかで頼みの綱は家計部門だ。実はいま、欧州の消費者心理は急回復している。昨秋に10%を超えていたインフレ率(消費者物価指数の前年比)が7月には5.3%に低下し、これによる実質所得の回復を家計が好感している模様だ(図2)。また、新型コロナウイルス禍の下で積み上がった「過剰貯蓄」の取り崩しも個人消費を下支えしている。
貯蓄はまもなく底を突く
しかし、ピーク時に5400億ユーロ(約85兆3000億円)に上った欧州の過剰貯蓄は足元で100億ユーロ(約1兆5800億…
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週刊エコノミスト
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