教養・歴史書評

関東大震災100年 助け合いや財界の責任について学ぶ 井上寿一

 今年の9月1日で関東大震災の発生から1世紀がたつ。この1世紀の間も震災は絶えることがなかった。12年前には東日本大震災が起きている。この大震災の際に、当初は海外メディアから日本人の助け合いと譲り合いが称賛された。しかし、その後はどうだったか。国と国民がこぞって被災地の復興に尽力したとは言いがたい。今も避難民は3万人を数える。また大震災の発生後、福島第1原子力発電所の事故の関連を含むさまざまなデマがSNS(交流サイト)などを通して拡散された。このようなことでは関東大震災から何を学び継承したのか、疑問を抱かざるをえない。

 土田宏成『災害の日本近代史』(中公新書、902円)によれば、災害の直後には「災害ユートピア」が生まれるという。東日本大震災の時の助け合いと譲り合いはこの「災害ユートピア」の萌芽(ほうが)だったのかもしれない。しかしどちらの「災害ユートピア」も長く続くことはなかった。また関東大震災の際のデマによる朝鮮人殺傷事件が民衆の自発的な行動だったことは、東日本大震災の際のSNSによるデマの拡散と通底するものがある。どちらも人災と呼ぶべきだろう。

 本書は指摘する。「災害ユートピア」を…

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