守り最優先の「聞く耳内閣」 総裁選再選、年内解散が照準に 伊藤智永
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内閣改造・自民党役員人事の目玉と位置付けられた小渕優子選対委員長。就任直後の記者会見は、いきなり涙目のスタートになった。「私がこれから歩みを進めていく中で、心に反省を持ち、決して忘れることのない傷としてまいりたい」
安倍晋三政権の経済産業相として入閣した直後の2014年、後援会の観劇旅行費用支出など3億円超の政治資金規正法違反で元秘書2人が在宅起訴された事件(翌年、有罪判決)。以来、小渕氏は説明を尽くさないまま目立たないように過ごしてきた。2年前、党組織運動本部長に就任して復権を目指し、今回は森喜朗元首相らの後押しで党四役入り。内閣支持率が低迷する岸田文雄首相、世論調査で人気の出ない茂木敏充幹事長に代わる「選挙の顔」を期待された大抜てきだが、想定内の質問に初めから動揺するとは頼りない。「いい人だけど、首相候補には遠いな」(党幹部)。人事全体の成否にも不安の影がよぎる出だしだった。
「納まりのいい安定感のある体制だ」。同じ記者会見で、留任した萩生田光一政調会長が岸田氏の意図を簡潔に代弁した。最大派閥・安倍派幹部としても満足しているという意思表示である。
順当にポスト配分
「納まり」とは、派閥勢力に応じて順当にポストが配分されたという意味だ。「安定感」とは党・内閣の主要な顔ぶれがほぼそっくり維持されたことを指す。閣僚19人中新任の11人は、全員が各派閥の推薦名簿をそのまま受け入れたか、女性登用かだ。入閣した理由を説明できない閣僚が1人もいない。ルール順守、守り最優先、究極の「聞く耳内閣」である。意外性も面白みもない。いわば岸田氏らしさが最も色濃く表れた人事とも言える。
その照準は明らかに、来年9月の自民党総裁選での再選に向けられている。総裁選出馬を狙う茂木氏を「総裁を補佐する」幹事長に据え置き、2年前に争った河野太郎デジタル担当相と高市早苗経済安全保障担当相も閣内につなぎ留めてライバルの選挙準備を封じた。麻生派・茂木派・岸田派の主流3派体制に、中身はフラフラしている安倍派を厚遇して取り込み、党内多数派を固めた。
ただし、これで再選への道筋が描けたことにはならない。総裁選の1年後には衆院議員の任期が来る。この体制のまま議員たちの当落に直結する次の「選挙の顔」を選ぶ総裁選を迎えて、人気低迷の岸田氏が再選されるかどうか。何とか有無を言わさぬ成果を示し、できるだけ無投票再選へ持ち込むにしくはない。それには総裁選前に衆院を解散して選挙で勝つ以外に、再選を確実にする道はない。
6月に解散風を吹かせて見送った後、マイナンバーカード騒動などで支持率が下落し、今秋の解散も難しいとの見方が…
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週刊エコノミスト
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