国際・政治東奔政走

好調・維新が狙っているのは菅氏らを巻き込む政界再編か 与良正男

維新の馬場伸幸代表(左)は「組むなら菅氏」と口にしているが……
維新の馬場伸幸代表(左)は「組むなら菅氏」と口にしているが……

 次の衆院選で野党第1党を目指すという日本維新の会の候補者選びが急ピッチで進む。当面は立憲民主が目標としている200人を上回る候補者の擁立を目指すという。目標達成に向けて、8月27日で就任から1年となった維新の馬場伸幸代表の鼻息は荒い。

 候補者探しの手法も注目を集める。例えば「エントリー説明会」と称する方式だ。オンラインで希望者に登録してもらい、その中から候補者を探すそうだ。

 言うまでもなく、企業のリクルートシステムを模している。「企業への就職と政治家になるのとは違う」と言いたいところだが、若い人たちにとっては、「就活」でなじみのある「エントリー」という言葉自体に身近さを感じるのかもしれない。

 維新は地方議員も含めてスキャンダルが後を絶たない。それでも人気が衰える気配はない。

 毎日新聞が8月26、27日に実施した全国世論調査によると、政党支持率は、自民25%(7月調査24%)▽維新15%(同16%)▽立憲9%(同9%)──などの順だった。世論調査のうえでは、既に維新は「野党第1党」であり、この状況は最近、常態化している。

 しかも今回の毎日調査で「今、衆院選が行われたら比例代表でどの政党に投票するか」と聞いたところ、自民と維新が、ともに21%で並んだ。自民、公明両党に警戒心が高まるのも無理はない。

自・公は一転して「和解」

 岸田文雄首相と公明党の山口那津男代表が8月24日に会談し、次期衆院選に際して、東京での自公の選挙協力を復活させることで合意したのも、その表れだ。

 公明は今春、東京での候補者の追加擁立を自民に拒まれたことに反発し、選挙協力の解消を宣言していた。公明の石井啓一幹事長は「自公の信頼関係は地に落ちた」とまで語り、亀裂は全国に波及するのでは、と言われていた。

 それが一転して「和解」に転じたのはなぜか。

 維新が次期衆院選で、公明との対決姿勢を鮮明にし始めたからに、ほかならない。小選挙区で公明は、自民の協力なしで当選の見通しが立たないからだ。

 自民にも、岩盤だった保守支持層が維新に侵食されているという深刻な危機感がある。ライバルは立憲より維新なのである。

 では、仮に次期衆院選で野党第1党となった後、維新は何を目指しているのだろう。それがますます重要になってくる。

 馬場氏は「野党第1党になって10年以内に政権を取る」と言っているが、それは、建前、あるいは原則論と見るべきだろう。

 馬場氏は8月6日のラジオ番組で「選挙を経て二つの政党で政権を維持できない場合、交渉のやり方とかいろいろと考える余地が出てくる」と語った。

 これが「自公連立への参加の可能性を示唆した」と受け止められて、藤田文武幹事長が「今のわれわれの実力と規模で連立に加わっても消えてなくなるだけだ。連立入りの意思は全くない」と火消しに走ったのは記憶に新しい。

 私も維新は自公連立に加わることを目指しているわけではないと思う。むしろ注目すべきは、馬場氏が「第1自民党と第2自民党でいい。国民のために改革を競い合えば政治は良くなる」と語っていることである。つまり目指すは、保守2大政党。だから「維新は単なる自民の補完勢力」で済ますわけにはいかない。

安倍派にもラブコール

 忘れてならないのは、維新は岸田首相には批判的なことだ。

 当時、注目したマスコミはほとんどなかったが、岸田首相の初の所信表明演説で、「改革」という言葉が一度も出てこなかったことを、いち早く指摘して強く批判したのは維新だった。

 維新は元々、故安倍晋三元首相と菅義偉前首相に近い。共通しているのは新自由主義的な志向である。それを考えれば、維新が連携を望んでいるのは自民全体というより、自民党内の菅氏のグループや安倍派ということになる。

 実際、馬場氏は雑誌のインタビューなどで、こう語っている。

「改革マインドを持った政治家が結集できるような『核』を、僕らは作ろうとしているんです」

「組むとしたら、筆頭は菅前首相でしょうね。政治家は結果を出さなアカンのです。それを実行してきたのが菅さんだ」

 要するに、自民も巻き込んだ政界再編(=自民の分裂)によって、自民とは別の保守党を作るという話である。

 馬場氏は安倍派幹部である萩生田光一自民党政調会長も「尊敬できる人」と評価している。安倍派への露骨なラブコールである。

 政策の選択肢が狭まり、一段と翼賛的な政治になりかねないという意味で、私は保守2大政党論には賛同しない。かつて分裂して野党に転落した経験を持つ自民が簡単に割れるとも思えない。

 自民分裂を主導した小沢一郎氏(現立憲)のような役割を菅氏が担う可能性も低いだろう。肝心の「新党が担ぐ首相候補」が見当たらないのが現状だ。

 それでも、自民まで巻き込もうとする野心が見えるからこそ、岸田首相は維新、そして菅氏の動向に警戒心を抱かざるを得なくなっているのである。

(与良正男・毎日新聞客員編集委員)


週刊エコノミスト2023年9月19・26日合併号掲載

好調・維新が狙っているのは菅氏らを巻き込む政界再編か=与良正男

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