圧巻の長回し17分 混沌に満ちたアンチカタルシス映画 勝田友巳
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映画 ヨーロッパ新世紀
ルーマニア・トランシルバニア地方の小村で数年前に起きた、スリランカ人追放事件を元にした映画だ。クリスティアン・ムンジウ監督は2007年の「4か月、3週と2日」でカンヌ国際映画祭最高賞のパルムドールを受賞して以来、ルーマニアから世界を問う作品を撮り続けている。遠い異国の出来事というなかれ。不寛容と断絶がはびこる世界の縮図は、わたしたちの現実に直結する。
ドイツに出稼ぎに来ていたマティアスは「ジプシー」とののしられて怒り、上司に頭突きを食らわせ、ヒッチハイクでルーマニアの家に帰ってくる。妻アナとの関係は破綻し、一人息子ルディは森で何かを目撃して以来口がきけない。彼は元恋人でパン工場の責任者のシーラとよりを戻そうとする。工場は人手不足で求人に応じる人がなく、スリランカから出稼ぎ労働者を雇い入れた。
物語は、マティアスとシーラを中心に、楕円(だえん)を描くように進んでゆく。マティアスは不仲のアナを持て余しながらもルディのことが気にかかり、シーラとの関係に不安と孤独を紛らせようとする。シーラはスリランカ人労働者への反感に気付いて不安を募らせながら、マティアスと惰性で関係を続けている。スリランカ人が教会の礼拝に姿を見せたことから、村人の反感が顕在化し暴走し始める。
村は元々、ルーマニアとハンガリーとドイツの民族が混じり合い、言語も多様だ。にもかかわらず、肌の色が違うスリランカ人を敵視する。自分も異端者として屈辱を受けたマティアスは、差別に加担はしないが助けようともしな…
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週刊エコノミスト
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