江戸から引き継いだ超絶技巧の明治工芸に連なる17人 “信じられない鍛錬”の結実 石川健次
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美術 超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA
驚嘆、感嘆の連続だ。福田亨の《吸水》は、3頭のアゲハチョウが水を飲んでいる。図版はその部分だ。素材はすべて木、木彫である。現実と見まがうばかりの景色が広がっている。
訪れたのは報道関係向けの内覧会で、作家を交えたギャラリートークが行われた。耳を傾けていると、板の上の水滴は周りを水滴の厚み分だけ彫り下げた後、肝心の水滴部分のみ研磨を重ね、ツヤを上げ、透明感も醸し出した。
細工後に板と組み合わせたくらいに思っていた私は、大いに恥じ、トークにも耳をそばだてた。すると、青や赤、黄など本物そっくりに着色されたチョウが、実は一切着色されていないと作家の口から明かされた。
じゃ、なんで……と当然の疑問とともに、漫然と見ているのでは「孤独な環境の中、自らに信じられないほどの負荷をかける鍛錬を実践している」と本展が謳(うた)う超絶技巧の真価を、半端ない魅力を見損ないかねないと独りごちた。
明治時代以降、野菜や果物を主題に象牙に精緻な彫刻を施すスーパーリアルな牙彫で知られる安藤緑山(1885~1959年)など、江戸から引き継いだ高度な技巧を存分に発揮した超絶技巧を駆使した工芸品が人気を集めた。
明治期の超絶技巧に目を配りつつ、木彫や金工、漆工、陶磁などさまざまな技法で「明治工芸のDNAを受け継ぎ」(本展図録)、文字通り「超絶技巧の未来を担う」(同)と本展が期待する17人の現代作家の新作を中心に紹介するのが本展だ。
最年長で1962年生まれの前原冬樹は、…
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週刊エコノミスト
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