アバクロンビー&フィッチ 多様性と包摂性で業績急回復 岩田太郎
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Abercrombie & Fitch 二転三転の米衣料品大手/93
アバクロンビー&フィッチは米衣料品大手だ。今年1月28日現在で米国、欧州、アジア、中東、カナダに計762店を運営する。
起源は1892年、測量技師を辞めたばかりの20代の若者、デイビッド・アバクロンビーが米ニューヨーク市に開いた店にさかのぼる。キャンプ、釣り、狩猟の用具を売ったという。1904年、不動産業者のエズラ・フィッチが共同経営者に加わり、現社名に改称。セオドア・ルーズベルト大統領や飛行家のチャールズ・リンドバーグなど有名人も顧客だった。
高額なアウトドア用品を売る店として知られていたが、70年から赤字に転落。76年には日本の民事再生法に相当する米連邦破産法11条の適用を申請し、9店全てを閉じた。しかし、同業の米オッシュマン・スポーティング・グッズが78年、商標権を手に入れ、「アバクロンビー&フィッチ」ブランドは復活した。同社は88年、アパレル大手の米ザ・リミテッドに同ブランドの商標権を売却した。
かつては「セックス」想起
米週刊誌『タイム』2000年2月14日号の記事によると、92年に最高経営責任者(CEO)に就いたマイク・ジェフリーズ氏は想定顧客層を「70歳以上から14~22歳に変えた」。同氏は販売員の服装や身だしなみを厳しく管理。店の照明を落としてクラブ音楽を流し、モデルのような容姿端麗な販売員をそろえた。米国の若者の間で人気に火が付き、96年には分社化して上場した。店舗数はCEO就任時の36店から00年の230店に急増。ティーンエージャー向けの新ブランド「ホリスター」も始めた。
しかし、同社が黒人やアジア系の販売員を客から見えない在庫置き場に追いやったとして、販売員が民事訴訟を提起するなどたびたび物議をかもした。反感が高まり、10年代半ば以降は売上高が急落。ジェフリーズ氏は14年に退任し、17年に女性のフラン・ホロビッツ氏がCEOに就任した。
ホロビッツ氏は「多様性と包摂性を経営の中心に据える」と強調して店内の照明を明るくし、黒人歌手を広告に起用し、LGBTのイベントを後援した。同社が22年7月、ネットメディアに掲載した記事体広告では「アバクロンビー&フィッチが成功を逃した主な理由は、かつてのセックスをイメージさせるマーケティング戦略と排他的な傾向だった」と赤裸々に認めた。
同社は今、太った人向けのサイズを増やしていることも包摂性を高める一環だとしている。また、不採算店を閉鎖する一方、売り場面積が小さい店を増やし、手の届きやすい価格帯の商品を増やした。
女性用ドレスが好調
業…
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週刊エコノミスト
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