教養・歴史書評

古代ギリシャの価値を再発見した古典的名著 本村凌二

 ブラックホールの発見者ホーキング博士の講演によれば、宇宙空間には人間のような高度な文明を備えた生物のすむ惑星が200万個はあったらしい。だが、それぞれの惑星ではやがて自然環境が破壊され、文明と自然との秩序が保てなくなるとその生物は短期間に消滅したという。

 同じようなことが、地球の文明史でも起こっているかもしれない。それを知るのに、古代ギリシャは格好の事例であり、独美術史家ヴィンケルマン(1717~68年)の『ギリシア芸術模倣論』(岩波文庫、1320円)はその古典的名著である。

 ヨーロッパでは、1500年にわたる長期間のキリスト教教会の支配のために、かつて繁栄していた異教徒は嫌悪されていた。栄えある古代ギリシャ人が暮らしていたことなど、ほんのわずかな知識人しか知らなかったのである。

 やがて18世紀半ばになると、ヴィンケルマンがやって来て、古代ギリシャ人とその文化を発見する。そこには美しい肉体を誇る彫像があった。その史的背景には、美と真をめでる芸術と学問があった。人々は肉体も精神も抑圧されず、鍛練されて伸びやかに育ち、自由と平等を謳歌(おうか)して才能を開花させていた。

 ゲーテはヴィンケルマンの書について「長い間、その存在がおぼろげに知られ、解釈され、論評されていた、言ってみれば、昔は知られていたものの今は失われてしまった、ある一つの国を、新たなるコロンブスとして発見した」と語っている。同時に、熱狂的なギリシャ礼賛が生まれ、現状が嘆かれ、ギリシャ復興を望む声が大きくなったという。

 プロイセンに生まれたヴィンケルマンは、苦学して教育を受け、古典文学、美術への造詣を深めた。やがてイタ…

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週刊エコノミスト

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