唐突な外交チーム刷新の裏側 米中のバランス変化に布石か 及川正也
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岸田文雄首相が内閣改造に踏み切り、第2次岸田再改造内閣を発足させた。財務、経済産業などの経済閣僚を留任させ、経済政策の継続をアピールする一方、外務、防衛の安全保障閣僚を交代させ、変化の予感をうかがわせた。改造前には異例の外務事務次官人事も行っている。「外交チーム」刷新の狙いは何か。
驚きを持って受けとめられた林芳正氏から上川陽子氏への外相交代は、さまざまな臆測を呼んだ。林氏が交代を首相から言い渡されたのは、改造前日の9月12日だった。しかも、直前までのウクライナ訪問の報告のために首相官邸を訪れた際だったというから、唐突感は否めない。退任後、党の要職を用意されることもなかった。
「親台派の麻生太郎自民党副総裁が親中派の林氏を嫌った」「実績を重ねる林氏を閣外に遠ざけた」などの解説が聞かれたが、組閣後の記者会見での岸田首相の説明がもっともらしい。「(安倍政権で)長く外相を務め首脳外交の重要性を痛感した。首脳外交で大きな役割を果たしていく」。官邸主導の外交へとシフトする宣言だった。「米中対立下でどう外交を展開すればいいか。そこに首相の最大の関心があるのではないか」。日米中外交に詳しい外務省関係者はこう語る。
改造前からその動きはあった。東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が始まり、これに反発して中国が日本産水産物の全面的輸入停止に踏み切った8月24日、宮本雄二元駐中国大使を官邸に呼んで意見交換した。宮本氏は今春、中国を訪問している。周辺によると、今後の対中政策を検討するのに当たって意見を聞いたという。
禁輸は「一時的措置」
関係者によると、宮本氏は「習近平指導部は対日関係を重視しており、関係を改善させたい考えは変わっていないと思う。ただし、それをどのように運んでいくかについては方針が定まっていない気がする」などと伝えたようだ。宮本氏は周辺に「首相は今後の中国との関係を真剣に考えているようだった」と述べたという。
外務省関係者はこう語る。「首相は政府高官、在中国日本大使館、財界・民間問わず、中国政府関係者との会談記録には熱心に目を通している」。中国政府当局は、日本の水産物全面輸入停止後、日本側に「一時的な措置であり、永久的な措置ではない」と繰り返し説明しているという。「中国は落としどころを探っている」ともいわれる。
中国に対して言うべきことは言うが、中国との緊張を安易に高めることはしない──。政府関係者によれば、こうした立場を岸田内閣は重視しているようだ。
もう一つの気になる動きが、改造1カ月前の8月10日付の外務省幹部人事だ。退任する森健良事務次官の後任に通常の外務審議…
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週刊エコノミスト
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