労組の組織率最低級でも増える労働争議 背景に人手不足と“製造業回帰”政策 多田博子
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今年は労働争議の多い年である。ハリウッドから自動車ビッグスリー、物流、看護師など、米国では上半期だけで312のストライキが発生し、45万人以上の労働者が参加した。根強いインフレに加え、高額報酬の経営層と現場で汗をかく労働者たちとの賃金格差や、不安定な雇用体系などに対する鬱憤が、業界の垣根を越えて広がっている。
米労働省の統計によると、労働組合の組織率は10.1%とデータ比較可能な1983年以降最低水準であるにもかかわらず、なぜストライキが頻発しているのか。
まず、新型コロナウイルス禍を契機に労使の力関係が変わったことが挙げられる。ロックダウンの中でも毎日現場に出ていたエッセンシャルワーカーの待遇改善を求める声が高まった。さらに、多くの労働者が自発的に会社を辞める「グレート・レジグネーション(大量離職)」の影響で労働力不足が恒常化し、「物言う強い労働者」が各地で増えた。
米国の人口動態に占める若い世代の多さも見逃せない。2022年時点でミレニアル世代(1981~96年生まれ)、Z世代(97年~12年生まれ)は人口の約43%を占め、リベラル志向を持つ人が多い。バイデン大統領は現職大統領として初めてミシガン州での自動車労働者のストライキ現場を訪れた。民主党支持基盤である若い世代へ寄り添う姿勢のアピールであることは明白である。
トランプ前政権、バイデン政権は「製造業を米国に取り戻す」政策では一致している。トランプ前政権では、対中関税や、外国企業の対米投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)などの規制を駆使して海外の影響力をそぐ形で、一方、バイデン政権ではインフラ投資雇用法、インフレ抑制法など産業補助金によって、国内産業を盛り立てようと懸命だ。米国の指導者たちの思惑通りに「強い米国」は復活するであろうか。
課題は熟練工不足
第二次世界大戦の終戦直後、ペンシルベニア州だけで日本・…
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週刊エコノミスト
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