経済・企業

金融調査10社に聞いた年度末のドル・円相場 6社が「140円台」(編集部)

 2022年から始まった円安・ドル高の基調が崩れない。ドル・円為替相場は10月3日には一時1ドル=150円を超え、1年ぶりの円安水準になるなど乱高下した。円安は自動車などの輸出型企業や、インバウンド需要にとっては「追い風」になる半面、輸入コストやガソリン価格、電気代の押し上げ要因になり、日本経済をじわじわ痛めつけている。

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 帝国データバンクによると、燃料費や原材料などの仕入れコストの上昇が原因となって倒産した「物価高倒産」は、今年1~8月までに計503件発生。輸入コスト拡大による「円安倒産」も1~8月までに47件確認され、すでに前年の34件を超えているという。

 建築資材の値上がりや人件費の高騰などを受け、都市部では住宅価格の高騰が続く。9月発表の基準地価によると、東京23区の住宅地はプラス4.2%で、前年のプラス2.2%から大幅に上昇した。働き手となって社会を支える若年層にとって、都市部の住宅は「高根の花」になりつつある。

円高でも「130円」

 現在の円安水準は今後どうなるのか? 本誌は主要金融・調査機関10社を対象に、ドル・円相場の見通し(24年3月末時点、図)や、日銀、米連邦準備制度理事会(FRB)が実施する金融政策の展望(表)についてアンケートを実施した。

 10社中6社が1ドル=140~149円の水準を維持するとし、円安のレベルは維持されると推測した。円安構造を支えるのは、①日米金利差拡大、②日本の経常収支悪化、③「有事のドル買い」──の三つの要因だ。金利差でいえば、政策金利の引き上げを続けるFRBと、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)やマイナス金利政策といった金融緩和策を続ける日銀との方向性の違いが円安の大きな原因となっており、各社ともFRBの対応に注視して今後の円安動向を分析している。

 10社の中で、最も円安の「149円」と回答した東京海上アセットマネジメントは「FRBが(利上げに積極的な)タカ派姿勢を維持する中、内外金利差は高止まりする」とみる。22年以降、利上げを続けてきたFRBが利下げに転じるタイミングが、ドル・円相場の転換になるとみられるが、利下げのタイミングについては「米国の景気・物価に落ち着きがみられた後の24年4~6月期」と指摘。24年3月時点では金利差は高止まりしている可能性があるため、ドル・円相場自体は大きく変わらないとみている。

 一方、最も円高の「130円」と予測するのはマネックス証券など2社。マネックス証券は「米長期金利低下に加え、日銀のマイナス金利解除に伴う日本の短期金利上昇により、金利差は長期、短期ともに米ドル優位・円劣位縮小に転換する見通しで、米ドル安・円高を後押しする」とみる。

 各社とも、23年中にFRBが利下げに踏み切ることはないとみており、最も早いタイミングで「24年3月」(みずほ証券、三菱UFJ銀行)。最も遅い時期で「24年12月」(フィデリティ投信)と見通しは、ばらついた。

 今回のアンケートは回答期限が10月4日だったため、7日に始まったイスラエルとイスラム組織ハマスとの軍事衝突は考慮されていない。かつては「有事(リスクオフ)の円買い」といわれ、世界的な有事が起きて投資家の心理が不安になると「安定資産」とされる日本円を買う動きがあったが、ロシアのウクライナ侵攻後はむしろ円安方向に加速している。今後中東情勢が混迷すれば原油高がさらに進む恐れもあり、円安方向へ下振れするリスクも抱えている。

 中東とともに、中国経済を世界経済の不安定要素になるとする回答もあった。「中国景気の基調は予想以上に弱い。不動産市場の低迷と、主要国のデリスキング(リスク低減)的な動きが足かせとなることで、今後も力強さに欠ける推移が続くとみる」(明治安田総合研究所)としている。

日銀「春闘待ち」か

 4月に就任した日銀の植田和男総裁が、13年以降進めている大規模な金融緩和策をいつ見直すのかが焦点になっている。アンケートでこれらの見通しを聞いたところ、マネックス証券はYCC解除については「23年12月」、マイナス金利の解除は「24年1月」と回答し、早ければ年末にも日銀が政策転換に踏み切るとの見通しを示した。

 ただ、日銀の見直し時期について各社の回答は来春以降になるとの見解が大勢だ。日銀は解除の条件に、賃金の上昇を伴う年2%の物価安定目標の達成を掲げており、来春闘の賃上げ状況を見極めたうえで金融政策を見直すのではないかと予測しているためだ。

 BNPパリバ証券、明治安田総合研究所は、YCC・マイナス金利解除について「24年4月」、みずほ証券は「24年4月か7月」とそれぞれ回答した。ニッセイ基礎研究所、フィデリティ投信、東京海上アセットマネジメント、三菱UFJ銀行の4社もYCC解除は24年7~10月になるとみている。日銀は毎年1、4、7、10月の年4回、物価の見通しなどを示しており、いずれかのタイミングで金融緩和政策を見直す可能性があるとみられる。

米国経済も波乱要因

 10社の中で唯一、YCCもマイナス金利も「日銀は解除しない」と答えたのはオックスフォード・エコノミクスだ。同社は「長期金利の急騰リスクは今後常に残り、財政への影響も大きいことを踏まえると、YCCの全面的な撤廃は現実的ではない」と指摘。「物価目標の持続的な達成が見通せる状況にはなく、利上げに相当するマイナス金利の解除は想定しない」としている。一方で「物価目標達成にかかわらず、解除が打ち出される可能性も残る」と含みも残す。

 SMBC日興証券は、24年中にはYCCなどの金融緩和策が継続され、見直しは25年に持ち越すとの姿勢だ。「24年初めからは米個人消費が明確に減速すると考えている。米国経済の減速を受け、日銀は(金融政策の)正常化を急がないとの決断を下すと考えている」と指摘し、米国経済の景気減速がリスク要因になるとみている。

(中西拓司・編集部)


週刊エコノミスト2023年10月31日号掲載

円安亡国 ドル・円「1ドル=140円台」6社 金融・調査機関10社アンケート=中西拓司

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