トラック、バス、タクシー 外国人の起用などで対策(編集部)
タクシー運転手は過去10年ほどで4割減り、トラック会社の7割は人手不足を感じ、路線バスの運休・減便が広がる。現場で何が起きているのか。
約2000人に上る運転手のうち、9月末現在で84人が外国籍というタクシー会社がある。東京都文京区の日の丸交通だ。1年前から13人、18%も増えた。国籍は中国が最多、韓国が2位、フランス、ブラジル、米国がそれぞれ4~5人。採用に力を入れ始めたきっかけは17年、タクシー運転手として働くことを希望するエジプト人が入社したことだった。
同社採用部の古舘博幸部長は「外国人でも(タクシー運転手に必要な)2種免許を取れることに気づき、人手不足もあったので在日外国人向けの求人サイトに募集広告を載せ、ハローワークでも募集することにした」と振り返る。
広告を見て興味を持ち、今年4月に入社したジャスティン・レナードさん(43)は米カリフォルニア州出身。20年前の来日以来、茨城県で高校の外国語指導助手や英会話学校講師を務めた後、3月まで英会話学校を経営してきた。コロナ禍で売上高が急減し、「もっと稼ぎたい」と運転手を志したという。業界団体の地理試験と2種免許の試験に合格し、7月からハンドルを握る。「月35万円稼げるようになった。40万、50万稼ぐ外国人の同僚もいる」と胸を膨らませる。
金髪・茶髪を解禁
古舘部長に外国人運転手が増えた効果を聞くと、「外国人が多く活躍することで、日本人の応募にプラスの影響があった」。タクシー会社は「中年男性ばかりの職場」というイメージが強かったが、外国人、女性、LGBTなど性的少数者が活躍していることが知られ、「多様性を大事にする会社」と感じて応募する人が増えたという。
外国人には髪の色が茶色や金色の人もいる。同社は今年、社則を試験的に緩和して日本人社員も含めて髪の色を自由にした。
「採用部の女性社員が真っ先に金髪にした。髪の毛を染めた乗務員もいるが、乗客から苦情はない。今のところ元に戻す予定はない」(古舘部長)
運輸業界の採用難がそれだけ深刻化していることの裏返しなのだろう。国土交通省のデータによると、法人タクシーの運転手数は11年ごろから減少幅が急になり、22年までに41%も減った(図1)。
今年に入って訪日外国人客が急回復し、京都市などの観光地ではタクシー乗り場に長蛇の列ができた。菅義偉前首相が8月、自家用車を使って面識のない人を有償輸送する「ライドシェア」の解禁を口にしてから議論が高まっている。国交省は運転手として働ける外国人を大幅に増やす検討に入った。
運転手が足りないのはタクシーだけではない。帝国データバンクによると、トラック運送業と宅配便業からなる道路貨物運送業の人手不足は13年ごろから顕著になった。人手不足を感じている企業の割合は13年11月に50%を超え、新型コロナウイルスが流行する直前まで悪化する一方。コロナ禍で緩和したが、今年9月は69.1%に戻っている。同社の旭海太郎氏は「半数以上の企業が人手不足という状態はすでに相当な水準だ。今の水準は全業種の50.1%を大幅に上回る」と説明する。
大阪・関西万博やカジノを含む統合型リゾート(IR)の工事が急ピッチになっている近畿地方はトラック運転手がとりわけ足りない。大阪市の千里カーゴサービスは運転手26人、車両31台を抱える運送会社。固本(こもと)秀徳社長は「以前は募集すると、5~10人の応募があったが、今は2、3人。年齢は40~50代で、若い人の応募が減っており、いずれ高齢化が問題になってくる」と話す。
課題は運賃
タクシー、トラック、バスの運転手は24年4月以降、残業時間など労働時間の法規制が強化される。関係業界は「2024年問題」と呼んで、運転手不足が一気に悪化すると恐れている。固本社長は対応を始めているという。
課題は運賃だ。「燃料などのコストアップを荷主に受け入れてもらえるか。ドライバーの待遇を給与面でもよくしていきたいが、運賃の引き上げに応じてもらえなければ、それもできない」と、他の業種に比べて低い給与水準の改善を後押しする政策を政府に求める。
車両27台、従業員38人を抱える川端運輸(奈良県大和郡山市)の川端真也社長は「うちは日帰り圏内の仕事がほとんどで、2024年問題にも対応できると思う。ただ、1日で四つできた仕事が三つになるとか、1人で対応していた仕事が2人必要になるなどしてコストアップしそうだ。その分をお客さんが認めてくれるかどうかが不安」と語った。
さらに、「2024年問題でドライバーの収入が減ってしまうと、若い人の成り手がなくなり、5年後、10年後にはドライバーの高齢化や人手不足が深刻な問題になってくる」と懸念する。
帝国データバンクの旭氏も2024年問題の余波を口にする。
「人手不足に拍車をかけるだろう。人手不足を理由に倒産する小規模事業者は実際に増えており、来年はこの傾向がさらに強まる可能性が高い」
同社の調べでは、人手不足を主因として倒産した道路貨物運送業者は今年1~9月、28件に上った。同期間としては過去最高だという。28件の内訳は、従業員30人以上3社▽20~30人3社▽10~20人8社▽10人以下14社──と小規模事業者の倒産が目立つ。
路線バスも運転手不足を理由に運休・減便する事業者が全国に波及している。運転手はますます不足するという見通しばかりなのだ。
(編集部)
週刊エコノミスト2023年10月31日号掲載
運転手が足りない! トラック、バス、タクシー 外国人の起用などで対策=編集部