教養・歴史書評

近年目につく「逆張り」という言葉 未来につなぐ視点で考察 美村里江

×月×日

 芸能界隈(かいわい)に大きなニュースが続くこの秋。私自身の仕事に多少影響もある中、いろいろ考えつつ新聞や雑誌やネット記事を読んで回った。

 その中でも度々目についたのが「逆張り」と呼ばれる意見。元は相場用語だが、ここ最近ほぼ毎日のように見かける。そこで『「逆張り」の研究』(綿野恵太著、筑摩書房、1980円)を読んでみた。ご近所問題やネットでの炎上体験など、著者の失敗談に有名書籍の引用を挟むことで、「逆張り」という言葉のシルエットだけでなく、厚みや重さまで感じられ読みやすい。

 造語もネットスラングもあっという間に使い古される現代では、大元の意味を把握しきれていないものも多い。時代により変わってきた「逆張り」という言葉が含む意味を説明しつつ、あらゆる思想やスタンスの解説にさらに逆張り視点でも解説を添えていくので、短時間でこの数年(特にネット記事で)使用頻度の高い用語群を、思いがけずおさらいすることができたのもよかった。

 多くの論争は「われわれ」(味方)なのか、「あいつら」(敵)なのかという部族主義的な本能に根付くということは、私も以前から感じていた。根本を無視して無難な「どっちもどっち」で片付ける風潮もうなずける。しかし、少数派であるはずの「逆張り」が増えすぎて本来の意味合いが薄れ、批評が力を失っているというのはもったいない話だ。

「批評的な逆張りとは、将来多数派から支持される作品を発見することだった」。こうした未来へつながる視点が減っている現状は、批評を糧や反動にして成長していくエンタメ業界としても変わってほしい。

×月×日

 先日、60センチのクエの水槽を掃除中の夫が、クエの鋭い“牙”で手を切った。即座に「驚かせて悪かったね、僕が悪い」とクエに謝り、「すごい!スパッと切れたよ」と笑う夫。医学博士でもあるが、動物好きの理学博士がこの人の根本だなと大判のばんそうこうを貼りつつ…

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