凸版印刷からTOPPANへ ついに“印刷”の2文字が消えた 永江朗
凸版印刷が10月1日、持ち株会社体制へ移行すると同時に社名を変更した。持ち株会社の商号はTOPPANホールディングス。凸版印刷の事業を継承する事業会社はTOPPANとTOPPANデジタルになった。
印刷業界は1位の凸版印刷と僅差で2位の大日本印刷のシェア率が飛び抜けて高く、印刷2強と呼ばれる。1位の凸版印刷の社名から「印刷」の2文字が消えたことは、時代の変化を象徴している。
同社は1900(明治33)年、凸版印刷合資会社として創立。雑誌・書籍の出版印刷はもちろん、証券や建材、商品パッケージなど、さまざまな分野で印刷を行ってきた。またブラウン管の部品など、紙への印刷以外での展開も早かった。それでも凸版印刷という社名を120年以上使ってきた。
「凸版印刷」というのは印刷技術の名称でもある。漢字「凸」の形が象徴するように、盛り上がったところにインクを付着させて紙などに押しつける。古代から続く最も歴史の古い印刷技術であり、570年ほど前にグーテンベルクが開発した活版印刷もこの技術の応用だった。現在では書籍や雑誌のほとんどが平版のオフセット印刷になったが、たまに図書館や古書店で活版印刷の本を見かけることがある。ページの表面をなでると、かすかな凹凸を感じる。その独特の風合いを好む人も少なくなく、活版印刷の名刺を使う人もいる。活版印刷に使われる「活字」は、書物の代名詞でもある。
社名としての「凸版印刷」は、近代日本の印刷文化、出版文化を象徴していたが、それが消えた。技術としての「凸版」が「TOPPAN(課題を突破するという決意が込められているそうだ)」という英字表記になり、「印刷」も外された。紙ばなれ、印刷ばなれである。それはライバルの大日本印刷も共通している。出版物や広告物などの印刷事業から撤退するわけではないが、デジタルをはじめ印刷以外のビジネスにも力点を移していくということだ。
これは出版社や書店、取次にも言えることだろう。紙の本を作って売るだけでは、ビジネスを続けていくことは難しい。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。
週刊エコノミスト2023年11月14日号掲載
永江朗の出版業界事情 ついに「印刷」の2文字が消えた