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すでに“死に体”?英スナク政権 GX政策延期で守旧派以外が反発 木村正人

スナク英首相。次期総選挙は苦戦が必至(2023年9月、ロンドンの英首相官邸) Bloomberg
スナク英首相。次期総選挙は苦戦が必至(2023年9月、ロンドンの英首相官邸) Bloomberg

 脱炭素化の旗を振ってきたスナク英首相は9月20日、「電気自動車への移行を緩和する。2035年までガソリン車やディーゼル車を買うことができる」と発表した。ガソリン車、ディーゼル車の新車販売禁止をこれまでの30年から5年間先送りした。

 ガスボイラーから環境に優しいヒートポンプへの移行も緩和した。ウクライナ戦争でエネルギー安全保障への懸念が強まったことや9月の消費者物価指数が6.7%と高止まりし、庶民の生活を圧迫していることが背景にある。

 英紙『インディペンデント』(電子版、9月21日付)は「スナク氏は働く人々に多大なコストを課すのは間違っていると説明した。気候変動に関する重要な公約を撤回したことで与党・保守党内の激しい内戦を引き起こした」と解説した。さらに同紙は、「スナク氏の方針転換は環境保護主義者、企業、同盟国、一部の保守党議員の間で裏切りという非難と怒りを爆発させた」との見方を示した。

 25年1月までに行われる次期総選挙に向け、最大野党・労働党に支持率で大差をつけられるスナク氏は、英仏海峡を渡る密航者や温暖化対策を争点化するしか打つ手がない。しかし、すべて13年間を超える保守党政権の責任である。

 16年の欧州連合(EU)離脱の国民投票以来、保守党だけでなく英国全体が欧州懐疑主義を唱える保守党内の強硬離脱派「欧州研究グループ」に乗っ取られてきた。彼らにとって「欧州」の次のターゲットは温暖化対策推進派だ。スナク氏もまた強硬離脱派の残党に鼻面を引き回されている。

 スナク政権で気候変動担当閣外相を務めたザック・ゴールドスミス上院議員は首相の後退に「気候変動に関する英国の信頼性を破壊した」と反発した。英紙『タイムズ』(電子版、9月21日付)は「Uターン(気候変動対策の逆戻り)で保守党の有権者を取り戻すことはないだろう」という首相官邸の世論調査を伝えている。

自動車業界から反発

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