自ら手放した「黄金の3年間」 岸田首相に挽回策はあるのか 与良正男
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岸田文雄首相は今の苦境を脱することができるだろうか。ようやく始まった臨時国会の焦点は、これにつきる。
政権発足以来、2年余り。報道各社の世論調査で、内閣支持率が軒並み過去最低を記録する中で行われた10月22日の衆参2補選は、与党の1勝1敗に終わった。衆院長崎4区はしのいだものの予想以上に苦戦し、参院徳島・高知選挙区では野党候補に大敗を喫した。
ともに元々、保守地盤が強固な選挙区だ。岸田氏に対する有権者の厳しい評価が如実に表れた選挙だった。
自民党岸田派の議員は「2敗するのと1勝1敗とでは天と地ほど違う。両方負けていたら『岸田降ろし』が党内で始まっていただろう」と話す。岸田氏も結果を聞いてほっとしていたという。
だが、これで岸田氏が探ってきた年内の衆院解散・総選挙は極めて難しくなったのは確かだ。そして年明け以降、選挙に有利な状況がやって来る保証もない。
来年秋の自民党総裁選で圧勝、もしくは無投票で再選されるためには、一度、衆院選に臨んで勝利しておく必要がある──という岸田氏のシナリオ=大前提は確実に崩れ始めている。
一体、何をしたいのか
最近、誰も口にしなくなった言葉がある。
「黄金の3年間」である。
2021年秋、岸田政権が誕生した当時は、「岸田氏には『黄金の3年間』が待っている」と言われたものだった。
次の自民党総裁選までには3年ある。その間、衆院を解散しなければ衆院選も参院選もなく、じっくり腰を落ち着けて、自分がやりたい政策に取り組める……。「黄金」とはそんな意味だった。
ところが、絶好の政治環境を手にしていながら、今や「首相は何をしたいのか分からない」というのが定番の評価になっている。
しかも、選挙を気にしなくてよかったはずなのに、岸田氏本人が絶えず衆院解散の可能性をちらつかせることで、やっと求心力を保っているのが実情だ。
先の通常国会が象徴的だった。国会終盤、岸田氏自ら「解散風」を吹かせ、野党が動揺した結果、防衛費の大幅増を裏付ける財源確保法などがすんなりと成立したのは記憶に新しい。
その直後、岸田氏は高揚した表情で「解散権という首相だけの特権を目いっぱい使わせてもらった」と語ったそうだ。
これを世間では「解散権をもてあそんでいる」という。政策実現にまい進する「黄金の日々」は消え去り、まるで真逆の2年間だったというほかない。
岸田氏は、首相に就く前の19年、テレビの報道番組で「首相になったら何をしたいか」と聞かれて、開口一番「人事」と答えた人である。
今年3月、福島県相馬市で開かれた対話集会では、なぜ首相になりたかったのか、子どもから質問されて「日本で一番…
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週刊エコノミスト
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