改憲、皇位継承で踏み込む首相 政権生き残りへ保守層に秋波 伊藤智永
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何をしたいのか分からないリーダーという評価がすっかり定着してしまった岸田文雄首相だが、トップダウンを演出した所得減税策も、その後に待っている大増税に嫌気が差している国民には、正式に決まる前からすこぶる不人気だ。「税収増の分かりやすい国民還元」「デフレ脱却・物価高対策」という説明は、「増税隠し」「衆院解散・総選挙対策」の狙いをごまかす方便と疑われている。
「新たな総合経済対策」の閣議決定前、非公開で行われた自民党の政調全体会議には衆参議員約100人が出席。1時間半に及んだ議論の後段は減税策に異論が噴出し、積極財政派の議員からも「撤回すべきだ」という強硬論が飛び出した。最後は萩生田光一政調会長が「いま減税方針を撤回したら政権が立っていられなくなる。いろいろ意見はあると思うが、ここはワンボイスで『支える』と言ってほしい」と引き取った。
今のところ「岸田降ろし」を口にする与党議員はいないが、このまま岸田氏が衆院解散を打てずに来年秋の自民党総裁再選を目指すしかなくなると早晩、指導力不足を不安視する党内に「岸田離れ」が起きるのは避けられない。過半が「再選不可」へ傾けば、岸田氏が菅義偉前首相と同じく総裁選不出馬=退陣へ追い込まれる可能性もあり得る。
頑固に「安倍派重視」
流れを左右するのは最大派閥の安倍派だというのが依然、岸田氏の政局判断だ。次のリーダーも決められない安倍派に今やそれほどの結束力があるのか疑問だが、岸田氏は「派閥割り足し算」重視を頑固に変えないという。
臨時国会の所信表明演説や質疑応答に、警戒と対策が表れていた。減税騒動であまり注目されなかったが、憲法改正・皇位継承・北朝鮮拉致問題で、岸田氏はこれまで以上に踏み込んでいる。各種世論調査で内閣支持率だけでなく自民党支持率も下がっているのは、党内で安倍派に代表される保守系支持層に「岸田嫌い」が広がっているためだと分析。保守層の関心が高いテーマで威勢のいい決意を示し、支持をつなぎ留めようという狙いが透ける。
例えば改憲について、岸田氏は従来「国会の発議に向けた衆参両院での活発な議論に期待する」という立場だった。いくら首相に意欲があっても、国民投票にかける条文案の具体化など与野党論議がまとまらなければ改憲手続きに入れない。決意は示しても実際は距離を置いて見守る態度だった。
ところが、今国会では首相答弁なのに「自民党総裁としてあえて申し上げれば、総裁任期中に改憲を実現したい気持ちにいささかも変わりはない。党内議論を加速させるなど改憲の課題に責任を持って取り組む」と発言。自らの総裁任期と改憲推進をことさら絡める論法を持ち出し…
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週刊エコノミスト
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