「辞任ドミノ」再現も追い打ちに 打つ手が裏目、懸案続発の首相 松尾良
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自ら主導した所得減税の不評から、ただでさえ低迷していた支持率の再下降が始まり、岸田文雄首相の政権運営には現在、ほとんど好材料がない。国会日程や国際会議も立て込み、年内の衆院解散・総選挙は事実上見送られた。乾坤一擲(けんこんいってき)の経済対策で再浮揚し、来秋の自民党総裁選で再選する首相の戦略は完全に目算が狂い、政権幹部は「一つずつ実績を積み上げて立て直すしかない」と力なく話す。
「還元の元手がない」
永田町の自民党関係者が「倒幕が始まったのか?」と一瞬、色めき立つ場面があった。11月8日、かつて岸田首相と同じ派閥に属し、麻生太郎副総裁を義兄にもつ鈴木俊一財務相が、衆院財務金融委員会で発した答弁が発端だ。
「(過去2年の)税収増の分は、政策経費や国債償還などで既に使っている。減税するなら国債を発行しなければならない」
所得減税について、岸田首相は「税収増を国民に還元する」と強調していたが、その元手はもうないので借金で賄う、と矛盾する見通しが示されたのだ。首相のいとこの宮沢洋一税制調査会長も「税収は全部使っており、(所得減税は)還元ではない」と同調した。
税収が事前の予測を上回った場合、補正予算の財源や国債償還にあてられることが多い。お金に「これは去年の税収」などと色がついているわけではないので、積極財政派の自民議員には「また財務省の策略か」と鼻白む向きもあったが、政府予算の多くを国債に依存する以上、むしろ当たり前の話だ。首相自身、経済対策に関する11月2日の記者会見では「還元」というキーワードを使わず、「過去に例のない子育て支援型の減税」などと説明を一転させた。
倒幕うんぬんと物騒な言葉が飛び交ったのは、「政権が追い込まれつつある」という共通認識が与野党に広がっているからだ。
政権にとってさらに打撃となるトラブルも絶えない。首相が内閣改造で起用した副大臣・政務官の相次ぐ不祥事だ。
税理士でもある神田憲次副財務相が代表取締役を務める会社が、過去に固定資産税を滞納して差し押さえを受けていたと『週刊文春』が報じた。徴税の重責を担う副大臣自身が、納税者としてのだらしなさを露呈したことに、与党からも「もたない」と批判が強まり、神田氏は事実上更迭された。
その前には、山田太郎・文部科学政務官が女性との不適切な関係についての報道で、また東京都江東区長選を巡る公職選挙法違反事件に関与したとして柿沢未途副法相が、おのおの辞任している。9月の内閣改造からわずか2カ月ほどしかたっていない。昨夏の内閣改造後、首相を窮地に追い込んだ閣僚4人の「辞任ドミノ」が再現されてしまった。
ちなみに神田…
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週刊エコノミスト
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