「日韓」「日中」で存在感薄く 首相得意の外交で得点稼げず 及川正也
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支持率低迷にあえぐ岸田文雄首相にとっては久々の晴れ舞台となるはずだった。11月中旬、世界21カ国・地域が参加して米カリフォルニア州サンフランシスコで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議だ。
高揚感が伝わったのが、米スタンフォード大学主催で同17日に開催された韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領との討論会だった。
「尹大統領と私にとっては今日がビッグゲームだ」。岸田首相は冒頭のあいさつで、翌日に控えたスタンフォード大とカリフォルニア大バークレー校のアメリカンフットボールのライバル対決を引き合いにアピールした。前日には今年7回目の首脳会談を終え、「トップ同士の決断が日韓関係を大きく変化させた」と意気軒高だった。
「紙読んでいただけ」
日韓間のトゲとなっていた元徴用工問題で、韓国最高裁が日本企業に命じた賠償金相当額を韓国政府傘下の財団が代わって支払う解決策を尹大統領が発表したのが今年3月。これを機に関係は改善に向かった。国内の反発を押し切って「決断」したのは、むしろ尹大統領の方だった。
水素・アンモニアの共同調達や脱炭素燃料の供給網構築、量子技術開発、サムスン半導体拠点の日本誘致などで合意した前日の首脳会談の成果は、その延長線上にある。「最も緊密な関係にある岸田首相とともに来ることができてうれしい」と尹大統領は相手を立てた。「尹大統領は感激するほどよくやってくれている。これが逆戻りしないような仕組みを考えないといけない」と外務省幹部は言う。
だが、その意気込みは、岸田首相からは伝わってこない。スタンフォード大教授で、進行役を務めたコンドリーザ・ライス元米国務長官が気候変動について具体的な政策を問うと、応答要領を脇に置き会場を向きながら自説を訴える尹大統領とは対照的に、岸田首相は資料を膝の上に置いて目で追いながら回答する光景が目立った。
米国の地元メディアは犬猿の仲だった日韓の接近を示す「歴史的イベント」と伝えたが、日本政府関係者は「首相はいかにもパンチ不足だった」と嘆いた。
こうした場面は、前日16日の習近平・中国国家主席との会談でも見受けられたという。2006年に日本側が提示した「日中の戦略的互恵関係」の文言を習主席が引き合いに出し、今後の日中関係に関する持論を披露した。
日中外交関係者は「習主席がメモを見ながら発言したのは半分くらいで、あとは自分の言葉で語りかけたが、首相は紙を読んでいただけだった」と話す。
主張を間違いなく正確に伝えたい、という気持ちがあるのだろう。しかし、日韓、日中という北東アジアの重要な国同士が連携を強化したり、困難を克服しよう…
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週刊エコノミスト
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