パニック状態に陥った自民 党分裂に波及する可能性も 人羅格
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パニックに等しい状況である。政治資金パーティーを巡る自民党の「政治とカネ」のスキャンダルは、派閥が企業・団体から資金を抜け道的に集めることで、政権内の人事を統御してきた党の「ビジネスモデル」を直撃した。
岸田文雄首相は、閣僚交代で裏金受領の疑惑を起こした安倍派議員を除くことで、政権瓦解(がかい)を食い止めようとしている。
ただし、党トップ・総裁としての責任は免れない。衆院解散、自民党総裁選、「ポスト岸田」の見取り図はもちろん、中期的に党の分裂に波及していく可能性すらはらんでいる。
安倍派に壊滅的打撃
無残な光景だった。
12月8日午後、参院予算委員会の集中審議を記者席で聞いた。安倍派のパーティー収入から多額の現金が松野博一官房長官に裏金として還流した疑惑が報じられた当日だった。
「裏金を受け取ったのか」とたたみかける蓮舫参院議員(立憲民主)に松野氏は、「捜査への影響」を理由に「お答えは差し控える」と回答拒否を繰り返すばかりだった。議場には「衆院での答弁コピペだ」「国会は何のためにある!」と怒号が飛び交い騒然とした。松野氏自身、いたたまれないように見えた。最大派閥の醜聞が火を吹く中、首相をはじめ政権中枢が誰も説明に応じようとしない。翌日、あっさりと松野氏や疑惑を抱えた安倍派幹部の更迭方針は固まった。
「『みんなで渡ればこわくない』赤信号に、いきなり取り締まりが入ってきた感じだ」と、自民議員秘書は心境を語る。
国から政党交付金が配分される代わりに、政治家への企業・団体献金は禁止されている。だが、実際は政党支部への献金と、政治資金パーティーによるカネ集めという大きな抜け道があり、有名無実化している。
とりわけパーティー収入は20万円を超えない限り、収支報告書に名義を記載する義務もない。2022年分の自民6派の収入約12億円のうち、実に約8割を占める。派閥に属する議員にはパーティー券を売りさばくノルマがあり、派閥は潤う。代わりに議員には派閥の後押しで政府・党内でポストがあてがわれる。
だが、東京地検特捜部の捜査とともに、想像以上に腐敗し、深刻な実態が浮かんできた。ノルマを超した収入分の議員への還流(キックバック)が報告書に記載されない「裏金」として議員に還流していた疑惑である。報道ベースで見る限り、安倍派の裏金配分は組織的で、決して「ミス」ではない。組織的に手を染めていたのであれば、犯罪的行為に等しい。
自民各派があわてて当面のパーティー開催の自粛を申し合わせたり、首相が岸田派からの離脱を表明したりしたドタバタは、党の狼狽(ろうばい)ぶりを象徴した。未公開株譲渡の疑惑が際限…
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週刊エコノミスト
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