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2023年3月期全254信金ランキング 有価証券で大幅含み損 経費削減で事業選別も 佐々木城夛

 全254信用金庫の2023年3月期の決算では、保有有価証券で大幅な含み損を計上した。

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 全国254信用金庫の2023年3月期の総資産は174兆9519億円(前期比2.77%減)、預金積金は160兆2800億円(同0.89%増)、貸出金は79兆8303億円(同1.31%増)となった。預金積金を上回る貸出金の伸び率の背景には、22年9月末まで取り扱った新型コロナウイルス対応のゼロゼロ融資(実質無利子・無担保)によるかさ上げ分が見込まれる。

 金融再生法上の不良債権額が前期末比で908億円増えたものの、不良債権比率自体は3.97%から4.03%と0.06ポイントの上昇にとどまった。その一方で、経常利益は3379億円(同11.12%減)、当期純利益は2423億円(同12.47%減)といずれも減少している。よって、多くの信用金庫で、再生の必要性が高いと判断した事業者に対する予防的な債務者区分の引き下げが、経営体力の枠内で実施されたとみられる。

 決算全体を概観して最も大きな動きがみられたのは、有価証券投資部分だ。信金を含む金融機関のディスクロージャー誌には、保有有価証券の評価損益に関する情報が記載されている。掲載情報のうち、利息・配当やキャピタルゲイン(値上がり益)目的で投資する「その他有価証券」に着目した。

「債券」と「その他」で

 その他有価証券は、主に「株式」「債券」と投資信託や外国証券などの「その他」の3種に区分される。これらについて、時価が帳簿価格を上回る含み益と、帳簿価格を下回る含み損が記載されており、その総合計は23年3月末で1兆559億円の含み損となった(図1)。前期末には1587億円の含み益を計上しており、中でも金利上昇などを受けた債券とその他の含み損拡大の影響が大きい。

 信金個別の状況を見ても、含み益を保持するのは16信金と前期の113信金から激減した。含み益を持つ16信金の合計額1719億円のうち、トップの高知信金(高知県)だけで887億円と5割超を占めている。一方、岡崎信金(愛知県)の含み損521億円を筆頭に、各地の信金で多額の含み損を計上した。島田掛川信金(静岡県)は投資信託と外国証券の評価損を先んじて積極処理した結果、339億円の最終赤字となった。

 3種の区分の内訳では、全信金の株式の含み益合計は前期比で260億円拡大しているが、それを債券、その他合わせて1兆3000億円弱の含み損が吹き飛ばしている。最も評価額を引き下げたのは債券で、全信金の債券の含み損合計は6826億円に達した。個別信金では債券で含み益があるのはわずか6信金にすぎない。

 債券の評価損益は23年3月末現在での市場環境を基にしているが、当時は国内の長期金利(10年国債利回り)が0.4%を下回る水準だったのに対し、足元では0.8%を上回って推移しており(図2)、金利上昇によって低金利時代に積み上げた国内債の含み損がさらに膨らむ可能性があろう。また、その他の合計も6166億円の含み損に達し、含み益を保持しているのは33信金にとどまる。

「ゼロゼロ」返済ピーク

 今年7月前後には、ゼロゼロ融資の返済開始のピーク時期を迎えた。ゼロゼロ融資では利息のみの返済が可能な「据え置き期間」を3年として借り入れた事業者が多いが、コロナ対応で予防的にゼロゼロ融資を利用した事業者で、資金繰りに余裕のある先は据え置き期間の終了に伴って借入金を一括返済する動きを示す。信金を含む金融機関にとっては、預金と貸出金双方の残高が減ることになる。

 本業の収益に当たる貸出金利息の減少が見込まれることに加え、有価証券投資の含み損を拡大させる金利上昇が顕著となる中で、各信用金庫はすでに経費の絞り込みを図っている。前期比で経費を減らした信金は73%を占め、経費の減少額は214億円に達した。職員数も確認できた244信金で2376人減少し、減少幅は前期比で2.4%となっている。

 信金では今後も、事業者支援と収益確保を両立させるため、店舗配置の絞り込みや他業態との事業の協働化などを模索することが見込まれる。マネーロンダリング(資金洗浄)対策の高度化などの負担も求められる中、費用対効果を踏まえて外国為替や取引先への現金の届け、金売買、サッカーくじなどの業務の取り扱いを中止する動きが増えてきても不思議ではないだろう。

(佐々木城夛・オペレーショナルデザイン 取締役デザイナー)


週刊エコノミスト2023年11月14日号掲載

岐路の信用金庫 2023年3月期 決算ランキング 有価証券で大幅含み損 経費削減で事業選別も=佐々木城夛

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