国際・政治ワシントンDC

キセルや万引きがはびこる米国 セルフレジ廃止の店舗も 小林知代

ワシントンDCの地下鉄では忘れ物が戻ってくるのは約4割という(Bloomberg)
ワシントンDCの地下鉄では忘れ物が戻ってくるのは約4割という(Bloomberg)

 米国は無差別な銃撃のみならず、キセル乗車やスーパーでの万引きなど、小さい盗みや悪事がはびこる不正直な社会であると強く感じる。ワシントンDCの地下鉄では、自動改札機を飛び越える若い男性が少なくない。最近、透明な板が設置されたが、それをものともせず、軽々と飛び越えていた。厄介ごとに巻き込まれまいと、筆者を含め、誰も何も言わない。駅員のブースに目をやると、ただ諦めた様子で、首をふり、ため息を漏らしている。

 ニューヨーク市の被害はもっとすごい。バス、地下鉄、有料道路の料金不払いなどを含めると、年間損失額は2022年に7億ドル(約1050億円)に上る。19年は3億ドル、21年は5億ドルで、被害が年々拡大している。

無賃乗車は1日40万人

 地下鉄の場合、無賃乗車客は1日平均延べ40万人に上るという。駅では本来、緊急時用の出口として設置されている「ターンスタイル」と呼ばれる回転ドアが無賃乗車に悪用されている。いったん構内に入れば、中から自由に回転ドアを動かせるため、1人が切符を使って入り、仲間たち全員を次々に回転ドアを回して構内に招き入れる手口で無賃乗車をしている。

 地下鉄といえば、先日、筆者はスポーツバッグをうっかり置き忘れてしまった。金目のものはタブレット端末ぐらいしか入っておらず、誰かが届けてくれるだろうと期待していたが、結局戻ってこなかった。遺失物窓口の担当者によると、忘れ物が戻ってくる率は約4割。日本では、財布を落としても8割以上の確率で手元に戻るとされるのと比べると違いは顕著である。米国人の知人に聞くと、「米国が4割だとは、思ったより高い数字だ」と言う始末である。

 最近では、セルフレジの廃止、もしくは店舗そのものを閉店する動きすら出てきている。大型スーパーのウォルマートやターゲットは、盗難が多い地域でいくつかの店舗を閉じている。ただ、人件費を考えるとセルフレジの利用は避けて通…

残り595文字(全文1395文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月14日・21日合併号

ストップ!人口半減16 「自立持続可能」は全国65自治体 個性伸ばす「開成町」「忍野村」■荒木涼子/村田晋一郎19 地方の活路 カギは「多極集住」と高品質観光業 「よそ者・若者・ばか者」を生かせ■冨山和彦20 「人口減」のウソを斬る 地方消失の真因は若年女性の流出■天野馨南子25 労働力不足 203 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事