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“毒をもって毒を制す”オーバードーズ対策 米国流の割り切り方とは 峰尾洋一

ワシントンDCなどでは4月以降、医薬品「ナロキソン」の自動販売機の設置が進められている 筆者撮影
ワシントンDCなどでは4月以降、医薬品「ナロキソン」の自動販売機の設置が進められている 筆者撮影

 国民1人当たりの自動販売機の設置台数は日本が世界一だそうだ。自販機の創造性でも日本は突出しているというが、間違いなく日本にはない自販機が米国に存在する。医薬品の「ナロキソン」自販機だ。

 ナロキソンは、医療用麻薬「オピオイド」の過剰摂取による呼吸抑制や意識レベル低下の症状から回復させる効果がある。日本では劇薬・処方箋医薬品に指定され、静脈内注射により投与される。米国では今年3月から処方箋なしの市販が承認された。点鼻薬が認可され、使用も容易である。

 米国では、2022年の薬物過剰摂取による死者数が10万人を超え、うち8万人超はオピオイドに由来する。薬物過剰摂取の100万人当たりの死者数で、米国は他の先進国と比べても突出している。2位のスコットランドより2割以上多く、ドイツの15倍、フランスの30倍に及ぶ。

 問題の背景には、処方されるオピオイド薬が鎮痛剤として多用されてきたことが挙げられる。米国では救急医療などを除けば、診察は予約制だ。しかも、専門医の予約はすぐに取れず、何日も待たされることはザラだ。診察してもらえる医者も保険会社のネットワークに左右される。評判が良い医者がいても、ネットワーク外では自己負担が跳ね上がることになる。

 専門医の診察はままならず、痛みも治まらない。そんな中で、比較的予約が取りやすい一般医・家庭医が処方してくれ、痛みを消し去ってくれる処方オピオイドは、非常に便利な存在だった。

 だが問題は、オピオイドが多幸感をもたらし、依存性や中毒性も伴っていたことだ。本来、痛みに対処するはずの薬が、一時の気分を晴らす用途でも使われるようになった。こうした乱用の顕在化により、処方オピオイドは厳しく規制されることとなる。処方箋数は12年の2億5500万をピークに減少を続け、20年には1億4300万まで下がっている。こうして正規の供給は絞られたが、需要がそれに同期するわけで…

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