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国際・政治 絶望のガザ

なぜ米国は親イスラエル?――政界・法曹・メディアに強い影響力 中岡望

「アメリカン・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」の会合で、大統領候補として演説するヒラリー・クリントン元米国務長官(2016年3月、ワシントンで)Bloomberg
「アメリカン・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」の会合で、大統領候補として演説するヒラリー・クリントン元米国務長官(2016年3月、ワシントンで)Bloomberg

 ガザ地区攻撃に対する批判の高まりで、親イスラエルを維持する米国の外交政策が試練に直面している。

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 イスラエルとパレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの戦いは泥沼化の様相を示している。バイデン米大統領は、イスラエルを徹底的に支持する意向を明らかにしている。国連の安全保障理事会でも、戦いはハマスの攻撃によって始まったものであり、イスラエルに「自衛権」があると、イスラエルの反撃の正当性を主張している。

泥沼化

 イスラエルは米国の軍事支援抜きではハマスとの戦いを継続することは難しい。バイデン大統領は米連邦議会に対してイスラエルに対する143億ドル(約2兆1000億円)の支援の承認を求めている。

 イスラエル支援を主張するのはバイデン政権に限らない。10月25日、米下院もイスラエルとの「連帯」を宣言する決議を賛成412票、反対10票の圧倒的な差で採択している。多くの米国民もイスラエル支援を支持している。米紙『USAトゥデー』が10月24日に発表した世論調査の結果では、ハマスとの戦いでイスラエルを支持するという回答は58%に達している。反対は35%であった。

 単にイスラエルを支持するだけでなく、兵器をイスラエルに提供すべきだという意見が最も多い。英経済誌『エコノミスト』と調査会社「ユーガブ」が10月17日に行った調査では、イスラエルに武器を提供すべきだという比率は41%であった。武器提供に反対する意見は29%にとどまっている。

 米国には伝統的に「反ユダヤ主義」が存在するが、基本的には“親イスラエル国家”である。2022年にピュー・リサーチ・センターが行った調査では、イスラエルに好意的と答えた米国人は55%で、非好意的の41%を大きく上回っている。

 長期的に見ても、大多数の米国人はイスラエルに友好的であった。ギャラップの調査では、01年の時点でイスラエルへの好感度は63%であった。02年に58%に低下したが、その後は70%前後で推移し、21年には75%にまで上昇している。

ユダヤ系ロビーの威力

 なぜ米国民はイスラエルに好意を抱いているのか。それを理解するには米国社会におけるユダヤ人の存在感を理解する必要がある。

 米国は最大のユダヤ系の人口を持つ国である。調査会社『Statista』によれば、米国に住むユダヤ人の数は730万人で、イスラエルに住むユダヤ人の数718万人を上回る。米国のユダヤ人の成人人口に占める比率は2.4%である。比率からすれば極めて少ないが、ユダヤ人の持つ影響力は極めて大きい。

 政界では、下院議員435人のうち28人がユダヤ人である。上院100人のうち10人がユダヤ人である。またバイデン政権の閣僚にはユダヤ人が多い。ブリンケン国務長官、コーエンCIA(中央情報局)副長官、ガーランド司法長官、ヘインズ国家情報長官、クレイン前主席補佐官、イエレン財務長官である。スタッフを含めれば、その数はさらに膨らむだろう。

 ユダヤ系ロビーの影響力も強い。最大のロビー集団は「イスラエルのためのキリスト教徒連合(CUFI)」で、400万人以上の会員を擁する。政治的に活発なのは「米イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」で、その資金力は全米ライフル協会に匹敵するといわれている。同委員会は選挙で親イスラエル候補に積極的に政治献金し、反イスラエル派の候補者を攻撃することで知られている。

米国に道義性の試練

 法曹界でもユダヤ人の存在が目立つ。現職の最高裁判事9人のうちユダヤ人判事はケーガン判事1人である。最初のユダヤ人判事はウィルソン大統領に1916年に指名されたブランダイス判事である。ブランダイス判事以降、49人の判事が誕生しているが、そのうちの8人がユダヤ人である。連邦裁判所や弁護士、検事を含めれば、その数は極めて多いと推測される。

 メディアも親イスラエルの傾向が強い。情報紙『AXIOS』は「主要な米国のメディアは歴史的に中東で緊張が高まるとイスラエル側に立つ」と指摘している。

 ガザ地区の一般市民を巻き込むイスラエルの攻撃は国際的な批判を浴び、特に病院への攻撃は国際的な反イスラエル運動に火をつけた。ハマスの攻撃をテロ行為と断定し、軍事支援を約束したバイデン政権は国際社会で、“道義性”を問われ始めている。パレスチナ問題の解決策を示すことができず、バイデン政権は出口のない泥沼に踏み込んだのかもしれない。

(中岡望・ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年11月21・28日合併号掲載

絶望のガザ 特別な関係 米国はなぜ親イスラエルなのか 政界、法曹、メディアに強い影響力=中岡望

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