Zenken社長「インド・ベンガルールの上位40大学と提携、日本向けIT人材の採用を強化」
IT・介護人材の仲介を手掛けるZenken(東証グロース市場)が海外人材事業を拡大している。少子・高齢化で国内の生産年齢人口(15~64歳)が減る中、日本企業の間でIT、介護の両分野で海外人材へのニーズが増えると見ているためだ。同社の林順之亮社長に成長戦略を聞いた。(聞き手=稲留正英・編集部)
―― 海外人材事業を強化している背景は。
■日本国内の働き手である生産年齢人口が減っているためだ。パーソル総合研究所によると、2030年の時点では国内の労働需要7073万人に対して労働供給は6429万人で、差し引き644万人が不足すると予想されている。
また、経済産業省の見通しではIT人材は2020年の時点で30万人が不足しており、30年には不足数が最大79万人まで拡大するとしている。同様に厚生労働省によると、介護人材は2019年に比べ、2025年には32万人、40年には69万人が不足する見込みだ。
インド大学に「ジャパンキャリアセンター」開設
―― 両分野におけるZenkenの取り組みは。
■IT人材事業においては、世界3大IT都市と言われるインドのベンガルールの上位40大学と提携した。インドでIT教育を受けた新卒学生と日本企業をマッチングするため、ベンガルールの大学内に「ジャパンキャリアセンター」を開設した。
―― なぜ、ベンガルールなのか。
■5年前に、当社の人材部門の責任者が、米シリコンバレーからベトナムまで、どこのIT人材が優秀なのかを調査した。ベトナムは日本語を学ぶ人が多く、言語の相性からも日本語をしゃべれる人が比較的多い。しかし、すでに、多くの日本企業が進出しており、ベトナム市場はすでに競争の激しい「レッドオーシャン」だ。
そうした中で出会ったのが、インドのベンガルールだ。灼熱のデリーと違い、標高が日本の軽井沢と同じくらいに位置し、比較的涼しい。人柄も、日本の東北地方の人のように、やわらかで温厚だ。学生も純朴な人が多い。そして、現地トップの工科大学のレベルは東大より高い。
―― そうなのか。
■米国なら新卒で年収1500万円レベルの人材だ。当社で雇っても、日本語を覚えたら、すぐにグーグル・ジャパンに転職してしまうかもしれない。ただ、人口も多いだけに、すそ野は非常に広く、早慶やMARCHレベルの人材も豊富にいる。
人材登録者数は1万6000人弱
―― インドIT人材の仲介実績は。
■2018年の事業開始以来、この5年間で日本企業への内定者数は279人となった。直近の人材登録者数は1万6000人弱だ。この5年間の実績が認められ、今年の3月には、インド国家技能開発公社(National Skill Development Corporation、NSDC)の100%子会社であるNSDCIと、ITなどの高度人材や介護人材の受け入れについて、覚書を交わした。これにより、工科大学を出たIT人材や、日本語ができる介護人材を、国が100万人単位の母数から選別して、安定供給してくれることになった。
―― インドでは日本は就職先として人気なのか。
■日本は円安が進んでいるので、米国ばかりが人気で日本に行きたいインド人はいないのではないかと思うだろうが、全然そんなことはない。日本の人気は非常に高い。
日本は「治安の良さ」で人気
―― なぜか。
■一番の理由は日本の治安の良さだ。インドの学生の両親の立場から見ると、一番怖いのは就職先の国の治安だ。さらに、日本はどの地方や市町村に行っても必ずインド料理店がある。また、安倍元首相以来、インドのモディ首相の間で非常に安定した政治的な関係があること、さらに、ベンガルールは、日本航空の直行便があるなど、色々な理由が重なっている。あとは、言葉の壁のみだ。
―― 日本語教育はどのように行っているのか。
■日本語能力試験は、一番難しいN1から一番やさしいN5まで五つの段階がある。当社はインド現地の日本語学校と提携し、大学とも組んで、2学年目から日本語を学ぶプロジェクトをスタートした。N2に近いN3のレベルになれば、日常会話に問題なく、日本で受け入れることができる。
―― 日本企業の反応は。
■まだ、ITと介護分野で、日本企業は切羽詰まった状況にはない。ただ、コンビニや土木業と同様に人材不足になるのも時間の問題だ。日本の行政側のサポートが充実し、例えば、「海外IT人材を雇ったら助成金が出る」いうような状況になれば、事業は加速すると思っている。
―― インド人材を採用するのは中小企業が多いのか。
■メルカリや楽天クラスになると、現地にオフィスを作って自ら採用している。だから、その下のクラスの企業が対象となる。
年収300万円から採用可能
―― インド人材の給与水準はどのくらいなのか。
■東証グロースに上場する会社が、現地で年収300万円で募集を掛けると、500人の応募がある。この中でIT試験を行い100人くらいに絞り、最終面接で20人くらいになる。その後、日本企業の人事の人を現地に連れて、2泊3日で1対1の面接をして、最後に3~4人を雇う。そうすると、採用が決まった人たちは、その場で泣き崩れる。
―― インド人の人が?
■例えば、貧しい家庭にとり、高度人材として世界に出られることは、一家をあげて喜ばしいことだ。ほとんどの学生は、その場ですぐに母親に電話をして、「イエーイ」と雄たけびを上げる。そのため、22年10月からスタートした海外の中途採用の人材を紹介するプラットフォームは「Yaaay(イエーイ)」と名付けた。
中途採用の海外エンジニアを採用する「イエーイ」
―― 「イエーイ」はどのような仕組みか。
■プラットフォーム上で「企業紹介」や「求人票」を英語で設置し、それを見た海外のエンジニアが登録する。インドだけでなく、世界90カ国以上の日本で働きたい即戦力の人材が集まるプラットフォームに成長している。足元では2万2000人の登録がある。
―― 介護人材の方は。
■現在の供給のメーンはインドネシアだ。現地企業2社と独占契約を結び、日本語教育・介護教育の体制を整えている。1社目の「ガクシュウドウ(Gakushudo)」はインドネシアで1987年より日本語教育を展開し、日本語教材の出版やインドネシア人材の送り出しをしている。2社目は「ダルマワン(SMK DARMAWAN)」で介護の専門高校を運営している。今後は、これに、インド人材が加わることになる。インドの東側の地域の人々は、見た目も日本人や中国人に近く、日本の介護現場で活躍できると考えている。
(終わり)