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国際・政治 FOCUS

1年ぶり米中首脳会談 習氏は“微笑外交”するも“半導体戦争”序盤戦は惜敗 柯隆

アジア太平洋経済協力会議(APEC)に参加した各国首脳。前列左から2人目が習近平国家主席、同6人目がバイデン米大統領(米サンフランシスコで2023年11月16日)Bloomberg
アジア太平洋経済協力会議(APEC)に参加した各国首脳。前列左から2人目が習近平国家主席、同6人目がバイデン米大統領(米サンフランシスコで2023年11月16日)Bloomberg

 攻撃的な発言で自国の都合を主張する「戦狼外交」から一転、「微笑外交」へ──。バイデン米大統領との首脳会談(11月15日、米カリフォルニア州ウッドサイド)に臨んだ習近平国家出席は、ソフト路線へ大きく転換した。米国滞在中には「ジャイアントパンダの保護に関する米国との協力を継続する用意がある」と、パンダを切り札に友好を演出する「パンダ外交」のカードも切ってみせた。

 習氏の路線転換の背景には中国経済の低迷がある。2023年7~9月期の国際収支では、外資企業による直接投資が1998年以降、初のマイナスになった。米国のモノの輸入に占める割合(23年上期)では、中国が15年ぶりに首位から脱落。メキシコ、カナダに次ぐ3位となった。インドに抜かれて4位になる可能性もあり「世界の工場」からの転落も現実味を帯びる。

 国内では不動産バブルの崩壊や若者の失業率悪化などに加え、政治面では習氏側近と目される李尚福国防相ら高官が相次いで解任されるなどの問題を抱える。中国の国内情勢は日本が考えているよりも深刻だ。

 訪米では、米国との関係を改善して国内経済を立て直したいとの習氏のあせりがにじみ出た。滞在中に、アップルなど主要企業トップとの夕食会を開催し、経済外交を展開した。米国の大豆や航空機メーカー・ボーイングの製品購入を検討していると報じられたのもその一環だ。ただ、半導体などの重要課題はたなざらしにされた。

 米国は昨年10月、包括的な対中半導体規制を公表。スーパーコンピューターなどに使われる最先端の半導体を、中国のハイテク企業などに輸出するには米政府の許可が必要となった。こうした規制に対して、効果を疑問視する声もある。例えば、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の最新スマートフォンには、半導体の回路幅が7ナノメートル(1ナノメートル=100万分の1ミリ)の先端半導体が使われており、中国が独自に半導体の微細化技術を進化させている可能性もある。

対中規制が効果

 一方、スパコンの計算速度に関する世界ランキング(11月発表)では、米国がベスト3を独占し、中国勢はベスト10にも入れなかった。首脳会談では習氏が、半導体の対中輸出規制について「中国の利益を著しく損なっている」と撤廃を求めたのに対し、バイデン氏は応じず、両者の溝は埋まらなかった。習氏の撤廃要請は、米国の締め付けがじわじわ効果を上げている結果と受け止められる。

 スパコンをはるかに上回る計算能力がある量子コンピューターや、第6世代(6G)移動通信システム時代に入れば、米国の半導体規制は一層効果を増し、中国の半導体など最先端技術はさらに遅れる可能性が高い。バイデン氏は、美しい景観に囲まれた邸宅を会談場所に選ぶなど習氏をもてなしたが、米国にとっては、半導体材料などで中国に代わるサプライチェーン(供給網)を構築するまでの「時間稼ぎ」の側面もある。

 米中はこれからも、双方が一切妥協せず、誰かが勝ったら誰かが必ず負ける「ゼロサムゲーム」を続けるだろう。会談だけみれば、半導体規制を譲らず、中国側が求めていた、香港政府トップの李家超行政長官(香港の自治侵害などで米国の制裁対象)の訪米を拒絶したバイデン氏側が6割、経済界とのパイプづくりに努めた習氏側が4割を獲得した、というのが今回の首脳会談の結果とみている。中長期の視点で捉えれば、一層本格化する半導体戦争の序盤戦と位置付けられるのではないか。

(柯隆・東京財団政策研究所主席研究員)


週刊エコノミスト2023年12月5・12日合併号掲載

1年ぶりの米中首脳会談 景気後退で習氏が軟化路線 「半導体戦争」の前触れか=柯隆

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