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「黒船EV」BYDドルフィン700キロ試乗記① 時速120キロでも高い走行安定性、こまめな充電で電欠の心配は皆無
今秋、中国の大手自動車メーカーBYDの小型電気自動車(EV)ドルフィンに2日間、計700キロ超に渡って、試乗する機会を得た。ドルフィンは、国と自治体(東京都)の補助金適用後の価格が、日本の代表的なハイブリッド車(HV)であるトヨタ・プリウスより安く(プリウスの275~392万円に対し、ドルフィンは補助金を使えば253~297万円)で、HV王国日本の牙城を崩す「黒船EV」とも呼ばれる。欧州では今年12月に、欧州31カ国のジャーナリストが加盟する審査団体AUTOBESTの「Best Buy Car of Europe 2024」を受賞した実力車だ。
果たして、市街地での「チョイ乗り」ではなく、高速を使った長距離の走行でも、下馬評に値する性能を持つのか、実際に乗って、評価したいと考えていた。また、EVを快適に運用するには、行く先々で充電環境が充実していることが必要だ。今回の試乗では、東名高速、新東名高速、中央高速という日本の大動脈での充電インフラの使い勝手も見てみた。
トヨタ・プリウスより安く、小さい
改めて、ドルフィンの仕様を紹介したい。車体のサイズは全長4290ミリ×全幅1770ミリ×全高1550ミリ。日産の主力EVリーフより全長で20センチ、幅で2センチ小さいが、室内の大きさを決めるホイールベースは2700ミリと同じだ。ドルフィンの最小回転半径は5.2メートルで、道が狭い日本の都市部での取り回しも良好だ。ちなみに、プリウスは、全長4600ミリ×全幅1780ミリ×全高1420~30ミリ、ホイールベースは2750ミリでドルフィンより一回り大きい。最小回転半径は5.3~5.4メートルである。
グレードは、電池の容量が44.9キロワット時、航続距離400キロと同58.56キロワット時、同476キロの二つある。今回は後者の電池容量が高い上位グレードに試乗した。最高出力は150キロワット、最大トルクは310ニュートンメートルだ。
試乗は、横浜市みなとみらいのBYDオートジャパン本社を10月31日の午前に出発、横浜町田インターチェンジ(IC)から東名高速に乗り、御殿場ジャンクション(JCT)から新東名高速に。静岡を通過して、豊田市の豊田東JCTから東海環状自動車道を北上、土岐JCTから中央道を東進し、諏訪湖の横を経由。長野県の茅野市で一泊後、翌11月1日に中央道の八王子ICから、保土ヶ谷バイパスを通り、BYDジャパンの横浜本社まで戻る1泊2日、計719キロの行程だ。
ドイツ車のようなどっしりした乗り心地
初日は、BYDオートジャパン本社の地下駐車場で広報担当者からドルフィンを借り受け、10時少し前に、横浜市内の道路に出た。ドルフィンは9月の日本発売直後に、同じく横浜市内で短時間試乗したが、その時に感じた、重心の低いどっしりとした乗り心地の印象は変わらなかった。味付けは、アウディなどのドイツ車に良く似ている。ちなみに、内外装ともドイツ人のデザイナーが担当している。内装を見ると、ダッシュボード部分などにソフトパッドを多用しており、車格以上の高級さを感じる。中央の12.8インチの回転式大型液晶は解像度が高く、カメラが映し出す前方・後方や上からの鳥瞰画像も十分に見やすい。出発時の充電率は87%、航続距離は408キロだ。
保土ヶ谷バイパスから横浜町田ICに入る。バイパスから東名高速の料金所に続く側道は、渋滞で時速は20キロ以下だが、ハンドル左側にあるオートクルーズボタンを押し、運転は車に任せる。渋滞時の前車追従はスムーズで特に問題はなかった。
海老名SAの古い急速充電器
東名高速に入ってからは、渋滞は解消し、11時9分に海老名サービスエリア(SA、下り)に到着した。ここでは、急速充電器で、11時40分まで30分充電した。この充電器は東光高岳製でかなり年季が入っている。充電ケーブルは太く、しかも、だらしなく路上に直置きされている。だが、一番の問題は液晶表示が劣化し、表示された文字が読めないため、充電操作に支障をきたすことだろう。
現在、高速道路などに設置されている公共の急速充電器は2012年度の国の補正予算で充電インフラ用に1005億円が計上されたことを契機に、14年にかけ一気に整備されたものだ。しかし、急速充電器の耐用年数は8~10年。高速での急速充電器を設置・運営するイーモビリティパワー(東京・港区)は、現在、充電器の更新を行っているが、このように老朽化した充電器がまだまだ多いのが実情だ。例えば、私がよく利用する中央道の石川PAと談合坂SAの東光高岳の急速充電器も同様に古い。
時速120キロでも高い直進安定性
30分の充電で、充電率79%→98%、航続距離は359キロ→458キロに回復した。再びハンドルを握り、御殿場JCTから新東名に入る。ここから最高速度は120キロに上がる。設計速度が140キロとされる新東名は、直線がながく、カーブも非常に緩やかだ。私は今年の4月に、独ミュンヘンでアウトバーン(A8号線)を走ったが、正直、アウトバーンよりも走りやすい。
ドルフィンで時速120キロまで加速してみる。直進安定性は非常によく、重心が低いので、平穏そのものである。風切り音も聞こえない。おそらく、時速140~160キロでも全く問題ない感触だ。
快適なニチコンの吊り下げ式充電器
新東名では13時26分に駿河湾沼津SA(下り)に到着し、充電のため休憩した。BYD本社からの走行距離は108キロ。ここには、ニチコン製の吊り下げ式の充電器と、スイスABB製の2口タイプの充電器がある。今回はニチコン製で充電する。ドルフィンは充電口が前についているので、前から駐車スペースにとめる。上からぶら下がったケーブルを充電口に差し込み、充電カードを非接触の読み取り機に読ませれば、充電が始まる。最新の機械だけあって、液晶の表示もきれいだ。吊り下げ式のケーブルは、重いケーブルを引きずらなくて済むのがうれしい。体力に自信がない女性や高齢者には使いやすいはずだ。
ここのSAは駿河湾が一望でき、眺望が抜群なのが特徴だ。新東名ではぜひ、休憩をとりたい。22分の充電で、充電率は78%→94%、航続距離は344キロ→436キロまで回復した。
清水PAで「伝説のすた丼」を食す
次は清水PA(下り)まで走る。累計の走行距離は141キロ。14時6分から39分まで充電休憩し、私も「伝説のすた丼屋」で遅い食事をとる。ニンニクが効いてうまい。体力を使う長距離トラックの運転手には人気だろう。実際、お店にはトラックドライバーと見受けられる人が多く食事していた。充電器は海老名SAと同じ東光高岳の古いタイプだ。30分の充電で83%→100%、369キロ→467キロまで回復する。
それから、次の長篠設楽原PA(下り)には、15時41分に到着。BYD本社からの走行距離は251キロだ。ここには新電元製の新しい急速充電器が設置されている。ここで20分充電し、70%→91%、295キロ→421キロまで回復させる。なお、ここのPAには、長篠の合戦の織田信長の本陣跡があり、見学できる。また、PA内の売店では、火縄銃などのオリジナルグッズも展示・販売している。こちらもぜひ、立ち寄りたいPAである。
小泉「道路公団改革」で2車線に減った新東名区間
そこから、再び、新東名を名古屋方面に走り、静岡を通過。浜松いなさJCTから、3車線から2車線になる。これは、小泉内閣時代の道路公団民営化の影響で、新東名の予算が削られたためだ。作家だった猪瀬直樹氏(のちに東京都知事)が主導した「特殊法人改革」は、当時、正しい議論に思えたが、実際に2車線になってみると、だいぶ、走りにくい。
愛知県に入り、豊田市の豊田東JCTから東海環状自動車道を北上する。そして、土岐JCTから中央道に入り東進する。中央道は中央アルプスの谷間を這うように建設されているので、勾配もカーブもきついのだが、EVでトルクが太いドルフィンは、苦も無く登っていく。何よりもアクセルペダルに瞬時に反応するのがEVの良さだ。特に追い越しは楽だ。17時11分に恵那峡SA(上り)に到着した。走行距離は361キロに達した。日はかなり沈みつつある。ここには、駿河湾沼津SAと同じニチコン製の吊り下げ式の急速充電器がある。17時37分まで26分間充電し、59%→89%、246キロ→416キロまで回復させる。充電し終わったころには、日が暮れていた。
夜は蓼科高原に宿泊
その後は、辰野PAで18時48分から同54分まで小休止したあと、19時37分に長野県茅野市蓼科高原の宿に到着。初日の走行距離は504キロ、充電率は39%、航続距離は152キロまで低下していた。この夜は、宿に設置されている3キロワット時の普通充電器を使い、朝まで充電することにした。蓼科を選んだのは、この季節は蓼科湖畔の紅葉がきれいだからだ。
(稲留正英・編集部)
(②に続く)