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「黒船EV」 BYDドルフィン700キロ試乗記② 電費は1キロワット時=9.1キロと高効率、過小評価できぬ中国の「ものづくり力」

BYDドルフィンの主張しすぎないデザインは自然の中でも似合う。蓼科山を背景に
BYDドルフィンの主張しすぎないデザインは自然の中でも似合う。蓼科山を背景に

 11月1日の翌朝は7時45分に宿を出発。充電率は39%→80%、航続距離は152→367キロまで回復していた。試乗しているドルフィンの電池の容量は58キロワット時。3キロワット時の普通充電なら、ゼロから満充電まで58÷3=19時間かかる計算である。

蓼科高原の紅葉をバックに
蓼科高原の紅葉をバックに

 中央道の諏訪南ICから高速に乗り、9時18分から49分まで双葉SA(上り)で、ABBの2口タイプの新しい急速充電器で30分充電する。充電率は64%→80%、航続距離は311キロ→389キロに回復した。この段階で総走行距離は578キロに。そして、藤野PA(上り)で短い休憩をとったのち、八王子ICから保土ヶ谷バイパスを通り、途中のガソリンスタンドで洗車をして、昼の12時34分にBYDジャパンの本社に到着した。2日間の総走行距離は719キロ、返却時点の充電率は45%、航続距離は216キロだった。

1時間ごとにこまめに休憩をとる

 結論から言えば、高速走行でもドルフィンはそのサイズからは想像できないどっしりとした走りを見せた。最高出力は150キロワット、最大トルクも310ニュートンメートルと大きく、高速での追い越しでもストレスはなかった。私のように、1時間ごとにこまめに休憩をとり、そのたびに、20分程度つぎ足すように充電する使い方なら、常に、充電率は5割以上、航続距離も200キロ以上に保たれるので、電欠の不安は全くなかった。

中央道双葉SA(上り)のABB製の急速充電器
中央道双葉SA(上り)のABB製の急速充電器
中央道双葉SA(上り)にはABB製の充電器が3基並ぶ
中央道双葉SA(上り)にはABB製の充電器が3基並ぶ

 EV専用のプラットフォーム(車台)と独自開発の電池とエネルギー管理システムを採用しているためか、電費は良かった。合計で2日間719キロを走り、平均電費は100キロ当たり11キロワット時、つまり、1キロワット時=9.1キロである。これは、テスラのモデルY(パフォーマンス)で今年2月に1521キロ走ったときの電費、1キロワット時=5.1キロよりかなり良好である。

 ちなみに、新東名の静岡区間で時速120キロで走ったときは、ドルフィンでも1キロワット時=6.2キロまで電費は悪化する。超高速域での燃費効率は、やはり、エンジン車に一日の長があると感じる。

改善が必要な高速でのハンドル介入問題

 一方で、「これは、改善が絶対に必要だ」という点もあった。それは、高速で追い越し車線から走行車線に戻る時に、ハンドルが突然とられる問題である。これは、前の遅い車を追い越し車線で追い越し、再び走行車線に戻るときに、車の後方センサーが、まだ、追い越した車が左後方近くにいると判断し、ドライバーが左に切ったハンドルに急に介入し、反対側にハンドルを切ろうとする動作だ。走行車線に戻ろうとしたのに、自分に意志に反して、追い越し車線側に「跳ね返される」イメージだ。ハンドルの前にある5インチの液晶画面に「エマージェンシー・レーンキープ・アシストシステム(ELKS)ON」という赤い警告メッセージが出て、ピーピーと警告音もなる。

BYDドルフィンの電費は1キロワット時=9.1キロと高効率だった
BYDドルフィンの電費は1キロワット時=9.1キロと高効率だった

ディーラーへの持ち込みでソフトを書き替えて対応

 試しに何度か、追い越しから走行車線に戻る動作を繰り返したが、かなりの頻度で、このハンドルへの介入があった。運転の初心者にとっては、事故の原因にもなりかねない。

 この点を、試乗後にBYDの担当者に伝えたところ、同様のクレームは他の顧客から来ており、ディーラーへの持ち込みでソフトを書き替え、この問題を改善するとの回答であった。ここは、至急、対応をお願いしたいところだ。

 この高速でのハンドル介入の問題は気になるが、それ以外は、下馬評通りの実力だった。

 BYDのライバルである米テスラや独フォルクスワーゲン(VW)は2万5000ユーロ(日本円で約400万円)のエントリークラスのEVの開発を進めている。しかし、VWで市場投入の時期は2025年。それに対し、BYDはすでにドルフィンを発売している。このスピード感は日本車にとっても大きな脅威だ。日本では、一般消費者のEVへのアレルギーはまだまだ根強い。だが、日本の自動車産業の未来を真剣に考えるのであれば、中国新興EVメーカー、BYDのものづくりの実力は決して過小評価してはいけないと、読者には強調したい。

(稲留正英・編集部)

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