民主主義が争点になる米大統領選 トランプ氏復活で始まる“独裁”シナリオとは 中岡望
2024年の大統領選挙の争点のひとつは、米国の民主主義の行方になりそうである。「NBCニュース」が23年11月25日に発表した世論調査では大統領選の最大の関心事は「民主主義を守る」であった。また、非営利・無党派のPRRI(公共宗教研究所)が10月25日に発表した世論調査では、回答者の45%が、トランプ前大統領が当選したら「アメリカの民主主義が破壊される」と答えている。
英誌『エコノミスト』は、「(2期目の)『トランプ2』は『トランプ1』よりもはるかに組織化されたものになる」と指摘する。トランプ陣営は第2期に向け、さまざまな政策構想を打ち上げている。
トランプ氏と彼の同盟者は、第2次政権では大統領権限を強化し、より権威的な政権にする計画を立てている。トランプ氏はリベラル派に対して「最終戦争」を仕掛け、「影の政権(ディープ・ステート)」を破壊すると語っている。さらに当選すれば「自分の敵に復讐する」と公然と語っている。トランプ前大統領はリベラル派を「害虫」と呼び、「根絶やしにする」とさえ語っている。
トランプ氏の最初の攻撃の対象となるのは、前大統領に対する訴訟を指揮している司法省である。司法省の「独立性」を制限する計画もあり、トランプ支持者は「大統領は司法省を指揮するあらゆる権限を持っている」と語っている。トランプ氏は司法省を使って政敵の犯罪捜査を行うとも主張している。司法省が大統領の意に沿って行動するようになれば、司法の独立性は失われ、民主主義の基本が揺らぐことになる。
官僚組織を完全に変える計画も存在している。約5万人の官僚をすべて再評価し、批判的な官僚を排除する計画もある。通常、大統領が交代すると、政治任命によって4000人程度の役人が交代するが、その範囲をはるかに超える官僚組織の大変革を狙っている。官僚の雇用も保障されなくなる。
FRB独立性も危機に
さらに深刻なのは大統領権限をさらに強化し、「独裁的な政府」を作ろうとしていること。議会が設立した独立的な政府機関を大統領の直接管轄下に置き、自らの政策の実現を図る計画を立てている。これが実現すれば、例えば連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の独立性に干渉することも可能だ。さらに議会の予算権を制限することも計画に含まれる。議会は予算権を持っており、大統領は議会が決めた予算案を拒否できない。大統領が議会で成立した予算を拒否できるようになれば、議会の力は一気に低下することになる。
また司法でも既に最高裁はトランプ派の判事が多数を占めており、トランプ前大統領の言いなりになっている。政策の最終的な憲法判断を行うのは最高裁の仕事であり、政権に有利な判決が下される可能性が強くなる。トランプ氏が狙う大統領権限の拡大は、アメリカ民主主義の基本である三権分立の原則を根底から覆すことになる。
移民政策に対しても、トランプ氏は厳しい姿勢を示し、不法移民の大量強制送還や難民受け入れの停止、移民者に対する思想チェックの実施も導入される可能性もある。
多くの人が次期大統領選で「民主主義」が課題と答えたのは、こうした背景がある。次の大統領選は米国の民主主義の将来を選ぶ選挙である。
(中岡望〈なかおか・のぞむ〉ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2023年12月26日・2024年1月2日合併号掲載
2024世界経済総予測 米大統領選1 トランプ氏復活=「独裁」の現実味 有権者が恐れる民主主義の破壊 中岡望