墓参に秘めた侍の意地と矜持 忠臣蔵の講談種を歌舞伎化した新作の再演 小玉祥子
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舞台 壽 初春大歌舞伎 赤穂義士外伝の内 荒川十太夫
赤穂義士が主君である赤穂藩の大名・浅野内匠頭(たくみのかみ)の敵として高家・吉良上野介を討った元禄15年12月14日(西暦で1703年1月30日)に起きた事件は評判となり、モデルにした人形浄瑠璃や歌舞伎作品が多く誕生した。
その集大成というべき作品が寛延元(1748)年初演の人形浄瑠璃「仮名手本忠臣蔵」であったことから事件は「忠臣蔵」と呼ばれるようになった。その人気から義士たちの周辺に焦点をあてた外伝物も多く誕生する。歌舞伎座の「壽 初春大歌舞伎」昼の部で上演中の「赤穂義士外伝の内 荒川十太夫」もそのひとつで講談が原作だ。
歌舞伎化を提案したのは十太夫で主演する尾上松緑。講談師の神田松鯉(しょうり)の口演を元に竹柴潤一が脚本にして2022年10月に歌舞伎座で初演され、古典の風格を持った新作として好評を博した。作品は同年の文化庁芸術祭優秀賞、脚本は大谷竹次郎賞を受賞した。
十太夫は伊予松山藩松平家の下級武士で、敵討ちの後に同家にお預けになった義士、堀部安兵衛の切腹で介錯(かいしゃく)を命じられた。
義士たちの七回忌を迎えた宝永6(1709)年2月4日。祥月命日に義士たちの墓所である泉岳寺を訪れた松平家の杉田五左衛門は同家中の十太夫と行き会う。十太夫が身分不相応な身なりをし、供まで連れていることを五左衛門は不審に思う。五左衛門は同寺の和尚との会話から十太夫が実際よりも高い身分の物頭(ものがしら)と偽って墓参を続けていたことを知る。
その夜、十太夫は藩主・松平隠岐守定直から直々(じきじき)の取り調べを受ける。十太夫は身分の偽りは認…
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週刊エコノミスト
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