経済・企業 FOCUS
急浮上「NTT法」廃止 次世代網IOWN推進狙い KDDIなど猛反対 芳賀由明
NTTの事業や経営に規制や国の関与を可能にする「NTT法」の廃止を巡る論議が2023年の夏、突如として浮上した。自民党は半年足らずの間に「25年をめどに廃止すべき」とする提言をまとめ12月11日、岸田文雄首相に手渡した。当初は防衛費増額に必要な財源確保のために政府保有のNTT株式売却を検討するはずだったが、提言から「防衛費」の言葉は消えうせ、NTTの責務や規制を定めたNTT法廃止こそが最大の目的であることがあぶり出されてきた。裏には、低消費電力光ネットワーク「IOWN(アイオン)」の世界展開を急ぎたいNTTの思惑が垣間見える。
同法は1985年にNTT民営化とともに制定された。その後数回の改正を経て現在に至っており、持ち株会社のNTTとNTT東日本、NTT西日本の3社が規制の対象。政府がNTT株式の3分の1以上を保有する規定のほか、外国人取締役の禁止、研究開発成果の開示義務、固定電話サービスの維持などが義務付けられている。NTTは経営の自由度を高めるためかねてNTT法廃止を要望してきた。
特に、研究開発成果の開示義務についてNTTは、グローバルな事業展開のなかで共同研究の足かせになっていると主張。IOWNの世界展開に支障を来すとの認識だろう。NTT東西地域会社が提供する固定電話サービスの加入数は1350万件だが減少に歯止めがかからず、赤字は膨らむ一方だ。NTTは電気通信事業法に統合し無線の活用なども可能にすべきだと主張している。
KDDI、ソフトバンクなど競合通信大手はNTT法改正には賛意を示すものの廃止には断固反対の姿勢で、他の通信事業者や自治体など総勢180者もの賛同を集め要望書を総務省と自民党に提出した。電気通信事業法だけでは固定電話の全国均一サービスに強制力が及ばない、税金で構築した全国通信網などの資産が完全民間会社に独占される懸念がある、などを理由にNTT法廃止を阻止したい考えだ。一方、NTTは必要な法的措置で懸念が払拭(ふっしょく)されれば「結果としてNTT法は必要なくなる」(島田明社長)という主張だ。
「法改正」ではだめか
自民党の提言は、24年の通常国会でNTT法を改正し、研究成果の開示義務と、政府の株式保有義務の撤廃を求め、保有株式の売却は政策的に判断すべきだとした。そのうえで、公平な競争環境の整備や固定電話の全国均一サービスを担保するために必要な法律を改正して、25年の通常国会をめどに、NTT法を廃止するよう求めた。NTTの要望に沿った性急な提言と揶揄(やゆ)されても仕方がないほど違和感が残る。
NTT法見直しはなぜ必要なのか。制度の問題を冷静に考えると、研究開発の開示義務や外国人取締役登用禁止はNTT法の改正で済むし、全国均一固定電話サービスへの無線技術の採用や政府保有株式比率の見直しは、総務省の通信政策特別委員会で検討しており、24年夏には答申を出す予定だ。社会経済に欠かせない通信利用環境の将来を大きく左右する政策判断だけにせいて事を仕損じるまねは避けるべきだ。
(芳賀由明・経済ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2024年1月9・16日合併号掲載
FOCUS 急浮上「NTT法」廃止 次世代網IOWN推進狙い KDDIなど他社は猛反対=芳賀由明