投資・運用

新NISAの柱は“恒久化”と“1800万円” 推奨は長期投資 安藤大介・編集部

 2023年11月下旬の昼下がり。JR東京駅に隣接するオフィスビル17階の会議室は熱気に包まれていた。新NISA(少額投資非課税制度)をテーマに大和証券が開いたセミナーには約140人が参加。会場は満席で、スタッフが追加の席を慌てて用意していた。

「新NISAはあらゆる年代の方が資産形成に使えるツールです」。講師の話に耳を傾ける参加者にはシニア層が目立った。「これまで株式投資はしたことなかったけど、やってみてもいいかな」。70代の男性からは、こんな声が聞かれた。

>>特集「とことん得する新NISA」はこちら

非課税の恒久化

 24年1月、新NISA制度が動き出した。書店をのぞくと、新NISA関連の特設コーナーが目立ち、注目度の高さが分かる。23年までの旧NISA制度から、何がどう変わったのか(表1)。

「一番のポイントは、口座開設期間の恒久化と、非課税保有期間の無期限化が実現したこと。これが非常に大きい」。制度設計の段階から新NISAに関わった中野晴啓氏(なかのアセットマネジメント社長)が強調する。

 従来のNISAの非課税期間は、一般NISAで5年、つみたてNISAが20年と限られ、期間終了後は、購入した投資信託や株式を課税口座に移さなくてはならなかった。新NISAでは、こうした時間的な制約は取り払われ、利便性が高まった。

 一方で無期限化は、「世代間の不公平感」(中野氏)を招きかねないという問題点もあった。長期間、投資が期待できる若者世代に対して、シニア世代の恩恵は限定的になりかねない。

 それに対応したのが最大1800万円までの投資枠拡大だ。年間360万円の上限まで投資すれば最短5年で達成でき、シニア世代も手早く恩恵を受けられる。NISA口座で投資した株式や投資信託などを売却・解約した後に、その枠を再利用することもできる。「無期限」と「1800万」が両輪となり、長期資産形成を考える投資家の注目を集めているのだ。

 投資家の熱気に対応しようと、資産運用に関わる企業側の態勢も整った。AI(人工知能)を活用して、投資のアドバイス、運用などを行うロボットアドバイザー(ロボアド)最大手、ウェルスナビは、新NISA開始に合わせて、預かり資産にかかる手数料を引き下げた。ロボアド投資に関心を持ってもらうきっかけにしてもらえればという狙いだ。同社執行役員の牛山史朗氏は「投資は人生の一時期だけでなく、生涯にわたって付き合うもの。新NISAが無期限になった意味は大きい」と語る。

 利用者の多いネット証券業界は、23年9月末にSBI証券が国内株売買手数料をゼロとし、他社も同調した。顧客の奪い合いは過熱し、消耗戦の様相も見せている。

20年で1200万円に

「つみたて投資枠」の名称が示すように、NISA制度が推奨するのは長期投資だ。だが、実際どの程度のメリットがあるのかは、見えにくい。そこで三菱UFJアセットマネジメントの協力を得て、過去20年間、コツコツと月1万円ずつ積み立てていたらどうなったのか、投資信託「eMAXIS Slim」シリーズでシミュレーションしてもらった(表2、拡大はこちら)。

 2003年から1万円ずつ積み立てていたとすると、20年で投資する額は240万円。もし米国株式(S&P500)に投資していたら1206万円、先進国株式インデックスなら949万円まで膨らんでいたという結果だ。支払ったお金の約5倍、約4倍に膨らんだことになる。運用益がさらに運用益を生む複利の効果は大きい。

「長期投資は最低でも5年、できれば20〜30年のスタンスで取り組みたい」。富裕層向けに投資運用サービスを展開するアリスタゴラ・アドバイザーズの篠田丈会長は、こう助言する。短期的にはリーマン・ショックのような大きな出来事があっても、長期で見れば一時的なノイズとなる。長期なら売買もタイミングも気にしなくていい。心理的なストレスを抑えることにもつながるのだ。

(安藤大介〈あんどう・だいすけ〉編集部)


週刊エコノミスト2024年1月9・16日合併号掲載

新NISA 無期限と1800万円の両輪 大きい長期投資の複利効果=安藤大介

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