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ヒョンデ最新EV「コナ」900キロ試乗記(上)近未来的なデザインと優秀な運転支援機能に感心、乗り心地はBYDドルフィン対比で柔らかく

ヒョンデ「コナ」。未来的なデザインでかなり格好は良いと思う
ヒョンデ「コナ」。未来的なデザインでかなり格好は良いと思う

 韓国ヒョンデ(現代自動車)の小型SUV(スポーツ多目的車)タイプの電気自動車(EV)である「コナ」に、1月20日、21日の週末、長距離試乗した。

 昨年から、国のCEV(クリーンエネルギー自動車)補助金と自治体(東京都の場合)の補助金を利用すれば、トヨタのハイブリッド(HV)車であるプリウスと変わらない価格で購入できる海外のEVが増えている。ヒョンデのコナはBYDのドルフィンや同ATTO3と並ぶその代表格だ。

三重県伊勢志摩まで一泊二日で

 ヒョンデは欧米では有名で、昨年取材した南ドイツでは、アウトバーンや街中で日本車より多く走っていた。だが、日本ではあまりなじみがない。ヒョンデの広報担当者から誘われた今回の試乗はその実力を知る良い機会だ。東京から伊勢志摩国立公園がある三重県の鳥羽市まで一泊二日でドライブに連れ出してみた。往復で945キロメートルの距離である。

コンパクトサイズのSUV

 最初にコナの概要についてお伝えしたい。コナは、ヒョンデが2023年3月7日にグローバル公開した世界戦略EVだ。サイズは、全長4,355ミリメートル×全幅1,825ミリメートル×全高1,590ミリメートル。いわゆる「Bクラス」と言われる都市部でも使い勝手が良い大きさのSUV(スポーツタイプ多目的車)に分類される。最小回転半径は5.4メートル。BYDとの比較ではドルフィン(全長4,290ミリ×全幅1,770ミリ×全高1,550ミリ)よりも、SUVのATTO3(全長4,455ミリ×全幅1,875ミリ×全高1,615ミリ)にサイズが近い。

名前はハワイのコナ島に由来

 ヒョンデ・モビリティ・ジャパンの趙源祥(チョ・ウォンサン)社長によると「コナの名前は、ハワイのコナ島に由来している」という。「コナ島はスキューバダイビングが盛んで、コナコーヒーでも有名。そのアクティブかつ、日常を彩るイメージを名前に込めた」そうだ。趙社長によると、初代コナは2017年6月の発売以来、全世界で累計23万台を販売し、中でもEV仕様は欧米で好評だったという。初代は日本では導入されなかったが、今回の全面改良を機に、23年11月1日から日本でも発売となった。

ヒョンデ・モビリティ・ジャパンの趙源祥社長(中央)、右はヒョンデデザインセンター長のサイモン・ローズビー氏
ヒョンデ・モビリティ・ジャパンの趙源祥社長(中央)、右はヒョンデデザインセンター長のサイモン・ローズビー氏

 ちなみに、今回試乗した2代目コナEVの2023年12月時点の全世界での累計販売台数は8,320台、韓国では2,510台、北米、欧州、台湾、香港の合計が5,810台となっている。

補助金活用後の価格はプリウスと同等

 コナは車載電池の容量が48.6キロワット時と64.8キロワット時の二つのタイプがあり、航続距離は456~625キロメートルだ。値段は399万3000円から489万5000円まで。国と東京都の補助金を適用後(65万円+45万円=計110万円)だと、自己負担額は289万円から380万円とHV車と変わらない。

ヒョンデ・コナとライバルの比較
ヒョンデ・コナとライバルの比較

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 今回、試乗したのは、上位グレードである「コナ・ラウンジ」。電池の容量は64.8キロワット時で、満充電の航続距離は541キロメートル。最大出力は150キロワット、最大トルクは255ニュートンメートルだ。価格は489万5000円である。

近未来的なデザイン

 小旅行に出かける前日にヒョンデ・モビリティ・ジャパンの横浜みなとみらいの本社前で初対面した。印象は、「近未来的でカッコ良いではないか」というもの。フロント部分に細いLEDライトが並んだ「シームレスホライゾンランプ」が横一文字に広がる。このLEDライトに前方を照らしだす機能はないが、デザイン上の大きなアクセントとなっている。ちょっと古くて恐縮だが、米アクション映画「ロボコップ」に登場するロボット警官を連想させる。実際に路面を照らすヘッドライトと方向指示器のランプは、バンパーの左右端に上下に重ねて配置されている。横一文字のランプデザインは、リアのテールランプにも用いられている。

コナはリアも一直線のLEDランプがつながる
コナはリアも一直線のLEDランプがつながる

インテリアも未来志向

 運転席に乗り込むと、外観に違わず、インテリアも未来志向だ。アナログの速度メーターは廃止され、代わりに12.3インチの液晶画面が二つ、横一列に並ぶ。右側の画面は、速度や航続距離、充電量や運転支援機能など運転に関わる情報を表示し、左側はナビや360度カメラの画像、ラジオや演奏中の楽曲の曲名などを表示する。米テスラと違い、エアコンやオーディオを操作する物理ボタンもたくさんあり、普通のエンジン車から乗り換えても違和感はないはずだ。

コナの内装は機能的で使いやすかった
コナの内装は機能的で使いやすかった

アイボリーのシートも選べる

 試乗車は黒の電動レザーシートだった。カタログによると明るいアイボリーのシートも選べる。私が以前、試乗したコナの上位EVであるアイオニック5は内装がこのアイボリーで、ボルボなどの北欧車を彷彿とさせた。私も自分で買うなら、アイボリーを選ぶだろう。天井にはサンルーフも装備されている。地球温暖化で夏は猛暑の日本では最近はあまり人気がないが、私は好きな装備だ。

 始動には、ハンドルの左裏側のダッシュボードにあるスタートボタンを押す。前進するには、ハンドル右脇から生えているシフトレバーの先端部を時計周りに、後退には反時計回りに回す。パーキングはシフトレバー先端のボタンを押し込む。

サスペンションは柔らかい味付け

 みなとみらいの一般道に走り出してみる。重量は1790キログラムあるので、乗り心地はどっしりしている。サスペンションは柔らかい感じで、路面の段差をそのストロークでしっかり吸収するタイプだ。ドイツ車風で硬質なBYDドルフィンとはだいぶ違う。

 三重県鳥羽市への小旅行は翌朝土曜日の早朝6時30分に出発した。東京・世田谷の用賀の入り口から東名高速に乗る。加速はEVらしくスムーズだ。センターコンソールにあるダイヤルでエコ、ノーマル、スポーツ、スノーの四つのドライブモードが選べる。ノーマルでも十分活発に走るが、スポーツにすると、かなりの加速で、追い越し車線では余裕を持って流れをリードできた。乗り心地は高速でも、段差のショックをふんわりと吸収してくれる。

高齢者にも快適な後席の乗り心地

 今回の小旅行では、旅好きの80代の両親も誘った。高速で後席の乗り心地を聞いたが、振動が少なく、足元も広く、エアコンの吹き出し口もあるので快適という。以前、乗ったことがある米テスラのSUV、モデルYの後席よりも乗り心地が良いとの評価だった。室内の長さを決めるホイールベースは2,660ミリメートルと、BYDのドルフィン(同2,700ミリメートル)より短いが、ひざ周りに余裕があり、かつ、床面もフラットだ。後席にもエアコンの吹き出し口のほか、100ボルトのコンセントもある。

コナの後席の足元は広く、床は平らだ
コナの後席の足元は広く、床は平らだ

車まかせでも安心の運転支援機能

 これまで、米テスラ、独アウディ、中国BYD、仏シトロエン、三菱自動車などのEVで長距離運転したが、コナで感心したのが、運転支援機能の優秀さだ。全グレードに車線維持と前車追従型のクルーズコントロールが備わっているが、これが、ごく自然に、自分の感覚にあって車を制御してくれる。高速で軽くハンドルを握っていれば、安心して、運転を車に任せることができた。これは、2日間で往復1,000キロメートル弱をひとりで運転しなければならない今回のようなケースでは、大きなメリットとなる。

コナのヘッドアップディスプレーは、走行支援機能の状態を分かりやすく表示
コナのヘッドアップディスプレーは、走行支援機能の状態を分かりやすく表示

 運転支援関連のボタンは、ハンドル内側の左スポーク(柱)にまとめられている。車とメーターが組み合わさったマークのボタンを押すと、運転支援が起動する。そうすると、前方の12.3インチの液晶画面と、フロントガラスのガラスに投射されるヘッドアップディスプレーに、現在の運転支援の状態が表示される。特にフロントガラスのヘッドアップディスプレーには、両側の車線と車の位置が緑色で表示され、きちんと、車線の真ん中を走っているのかが一目で分かるのが便利だった。

新東名の時速120キロ区間でも安定した走り

 御殿場インターチェンジ(IC)からは、新東名高速道路に入った。ここからは最高速度が120キロメートルになるが、安定した走りは変わらず。仮に時速140~160キロでも直進安定性はしっかりと確保されていることが容易に想像できる足回りだった。風切り音も低く抑えられていた。

コナは雨の新東名の時速120キロの走行でも安定している
コナは雨の新東名の時速120キロの走行でも安定している

 コナの充電口はフロント部分にある。充電すると、鼻から管が出ているみたいで、少しユニークな姿となる。

同じ30分の充電でも、充電量はまちまち

 東京の自宅をほぼ満充電(99%)で出発し、往路は①自宅から43キロメートルの海老名サービスエリア(SA)、②同117キロメートルの新東名の駿河湾沼津SA、③同205キロメートルの掛川PA、④同354キロメートルの東名阪自動車道の御在所SAの4回充電した。①の海老名SAでは新電元工業製の急速充電器で30分充電し、充電率(航続距離)は87%(336キロメートル)→95%(379キロメートル)に回復した。同様に②の駿河湾沼津SAではABB製で28分充電し、72%(270キロメートル)→85%(336キロメートル)に、③掛川PAでは、ABB製で30分充電し、53%(184キロメートル)→78%(292キロメートル)に、④御在所SAでは、東光高岳製で30分充電し、30%(86キロメートル)→59%(189キロメートル)――にまで回復した。同じ30分間充電しても、充電残量やバッテリーの温度、充電器の性能により、毎回、充電される量がまちまちなのが、現行のEVの欠点と言える。

コナの充電口はフロントに。鼻にチューブを差し込んでいるようで姿はユニーク
コナの充電口はフロントに。鼻にチューブを差し込んでいるようで姿はユニーク

電費はいま一歩、1キロワット時=4キロメートル台

 電費は、①自宅→海老名SA(距離43キロメートル)で、1キロワット時=5.0キロメートル、②海老名SA→駿河湾沼津SA(同74キロメートル)で同4.8キロメートル、③駿河湾SA→掛川PA(同88キロメートル)で同4.2キロメートル、④掛川PA→御在所SA(同149キロメートル)で同4.8キロメートル、最終区間である⑤御座所SA→鳥羽水族館(同107キロメートル)で同4.8キロメートルだった。

コナの三重県鳥羽市までの電費は1㌔㍗時=4キロ台であまりよくなかった
コナの三重県鳥羽市までの電費は1㌔㍗時=4キロ台であまりよくなかった

 ヒョンデが公表しているコナの電費は1キロワット時=7.3キロメートルで、それと比べると少し物足りない。BYDのドルフィンを試乗した際は、2日間で719キロメートルを走り、1キロワット時=9.1キロメートルだった。コナの重量はドルフィンに比べ110キロ重い(1790キログラム対1680キログラム)うえ、今回は3人乗車(ドルフィンは1人)で、ボディ形状も空力で不利な背が高いSUVだが、それでも、電費は1キロワット時=6キロ以上は欲しいところだ。ここは、ぜひ、ヒョンデに頑張って改良してもらいたい。

鳥羽水族館を見学

 三重県鳥羽市の鳥羽水族館には、13時50分に到着した。ここまでの累計走行距離は461キロメートル。水族館ではアシカショーなどを見学。あいにくに雨模様だったが、家族連れやカップルで賑わっていた。雨にもかかわらず、水族館から見える伊勢湾の景色が素晴らしい。海の上には、真珠の養殖に使われると思われる筏が、向かい側の島との間にいくつも浮いている。ミキモト真珠島は水族館のすぐ隣だ。

鳥羽水族館からは伊勢湾と真珠を養殖する筏が見られる
鳥羽水族館からは伊勢湾と真珠を養殖する筏が見られる
鳥羽水族館のアシカショー
鳥羽水族館のアシカショー

宿泊施設には「エネチェンジ」の普通充電器4基あり

 水族館には2時間ほど滞在し、その日の宿で、水族館から5キロメートル離れた「Bali & Resort SAYAの風」に到着したのは、16時16分だった。東京からの総走行距離は466キロメートル。この宿を選んだのは、充電サービス会社「エネチェンジ」の普通充電器(6キロワット時)が4基設置されており、宿泊している間に充電できるからだ。

今回のコナ試乗で宿泊した三重県鳥羽市の「Bali&Resort SAYAの風」
今回のコナ試乗で宿泊した三重県鳥羽市の「Bali&Resort SAYAの風」
コナを充電した「Bali&Resort SAYAの風」の普通充電器。4基ある
コナを充電した「Bali&Resort SAYAの風」の普通充電器。4基ある

 外は雨が降っていたが、その日は、温泉につかり、伊勢湾の夜景を見ながら伊勢エビなどに舌鼓を打ち、翌日の復路に備えてゆっくりと体を休めた。(稲留正英・編集部)

>>(下)に続く

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