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ヒョンデ最新EV「コナ」900キロ試乗記(下)帰路は伊勢神宮に参拝、パドルシフトや環境音楽、ARナビが運転の楽しさ演出

伊勢志摩スカイラインの展望台は濃霧だった
伊勢志摩スカイラインの展望台は濃霧だった

 ヒョンデの最新電気自動車(EV)「コナ」の長距離試乗2日目。朝になり、昨晩からの強い雨は弱まったが、それでも、ホテルのレストランから望む伊勢湾の島々は、厚い雲で覆われていた。

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ホテル「Bali&Resort SAYAの風」のレストランからは伊勢湾が一望できる
ホテル「Bali&Resort SAYAの風」のレストランからは伊勢湾が一望できる
ホテル「Bali&Resort SAYAの風」の客室はバリ島のリゾートホテル風に改装されている
ホテル「Bali&Resort SAYAの風」の客室はバリ島のリゾートホテル風に改装されている

 宿泊した鳥羽市の「Bali & Resort SAYAの風」は、元々あった和風旅館を、インドネシアのバリ島にあるリゾートホテル風に改装し、2019年12月にオープンしたもので、館内や客室は、バリ島から取り寄せた調度品で飾られている。接客やサービスは丁寧で、客室やロビー、レストラン、大浴場の掃除も行き届いていて気持ちよかった。

朝には充電率は100%、航続距離は304キロに回復

 そして、EVユーザーにとり、うれしいのは、普通充電器が4基もあり、充電の心配をしなくても良いことだ。ホテルは9時過ぎに出発したが、コナの充電量は昨晩の23%から100%、航続距離も63キロメートルから304キロメートルに回復していた。

朝にはコナは100%充電されていた
朝にはコナは100%充電されていた

観光道路「伊勢志摩スカイライン」を走る

 宿から数キロのところに、観光道路「伊勢志摩スカイライン」がある。日産自動車のハイブリッド車「ノートe-power」の宣伝でも使われたことがある。晴れていると、山頂の展望台から、伊勢湾の絶景が見えるという。次の目的地である伊勢神宮への経路ともなるので、通ってみることにした。通行料金は通常1270円だが、ホテルでもらった割引券を使うと1020円になる。料金所の人からは、「本日は霧で何も見えないかもしれない」と言われたが、せっかく東京から来たのだし、山道の性能も知りたい。霧の中、急こう配のワインディングロードをコナはEVの太いトルクで3人乗車をものともせずグイグイと登っていく。

 朝熊山山頂展望台には9時24分到着。ホテルからは14キロの距離で、コナの電費計は、1キロワット時=2.7キロを表示していた。案の定、伊勢湾は濃い霧に覆われ、展望台から何も見えない。

伊勢湾の絶景が見えるはずの伊勢志摩スカイラインの展望台からは何も見えず
伊勢湾の絶景が見えるはずの伊勢志摩スカイラインの展望台からは何も見えず

回生ブレーキの強さをパドルシフトで調整可能

 下りでは、ハンドルについているパドルシフトを使ってみた。このパドルで、回生ブレーキの強さを4段階に調整することができる。きつい下り坂で、回生ブレーキをうまく使うと、ブレーキを踏まずに下ることができ、ハンドル操作に集中できる。EVはバッテリーが床に置かれているため重心が低く、SUVのような背の高い車でも曲がりくねった道を不安なく走り抜けた。

 伊勢志摩スカイラインを山のふもとまで降りると、そこはすぐ伊勢神宮の内宮となる。内宮の駐車場には10時11分に到着。門前町を「おはらい町」と言い、伝統的な日本家屋の土産物や飲食店が両側にびっしりと連なった長さ800メートルの石畳の通りが、内宮の入り口である宇治橋まで続く。

観光客でごった返す伊勢神宮

 雨はほぼ止んでいたが、曇り空。それでも通りは、観光客でごった返していた。外国人の姿は少なく、ほとんどが日本人のようだ。代表的な伊勢参り土産である「赤福」の本店のほか、米スターバックスコーヒーが日本家屋で営業しており、通りかかった観光客が珍しそうに、その前でしきりに写真を撮影している。 

伊勢名物の餅「赤福」のお店
伊勢名物の餅「赤福」のお店
米スターバックスも伊勢では日本家屋で営業
米スターバックスも伊勢では日本家屋で営業

 伊勢神宮の内宮の本殿までは、宇治橋からかなり歩く。境内は巨木が植わり、空気も澄み、いかにも「神域」の雰囲気が漂う。内宮の本殿は撮影禁止だが、古代の神殿はこうだったのだろうと思われるシンプルな木組み屋根の姿だ。天照大神が祭られている。2礼2拍してお参りをする。帰路は宇治橋近くにある土産店「岩戸屋」で、名物「岩戸餅」を買ったところ、雲の間から太陽が急に顔を出した。天照大神が機嫌を直したのか。

使い勝手が良かったARナビゲーション

 伊勢神宮を12時過ぎに出発。伊勢インターチェンジ(IC)から伊勢自動車道に乗り、名古屋方面へ。伊勢ICに向かう一般道では、コナ自慢のAR(拡張現実)ナビを使ってみる。これは、液晶画面に映し出された前方の実際のカメラ映像に、次の交差点までの距離や矢印のコンピュータ画像を重ね合わせ、表示するもの。地図だけのナビに比べ、ドライバーがフロントガラスから見る実際の映像とナビが連動するので、曲がるタイミングが分かりやすい。便利だし、何より、未来の車に乗っている感じがして、オーナーには自慢のアイテムだろう。

ヒョンデ・コナのARナビ
ヒョンデ・コナのARナビ

ヒーリングミュージックも標準で搭載

 コナでもう一つ気に入ったのが、オーディオを選択する画面で、「自然の音」と表示された環境音楽を聴けることだ。イメージ画像がついた「清やかな森」「さざ波」「夜明けの街」「宇宙」「春の訪れ」などの曲を選ぶと、そのイメージにあったヒーリングミュージックが流れてくる。普通の楽曲に飽きれば、気分に合わせて、これらの曲を楽しむことができる。この日は雨が降っていたので、雨音をイメージした曲を聞いた。オーディオ自体も米BOSE社のスピーカーを搭載し、音質は十分だった。

コナのオーディオからは環境音楽が選べる
コナのオーディオからは環境音楽が選べる

大型商業施設「多気ヴィソン」

 伊勢道をしばらく走ると、高速脇に「多気ヴィソンはこちらのスマートICで下車を」という看板が出てきた。多気ヴィソンはホテルもある大型の商業施設ということで、ユーチューブで紹介されていたのを見たことがある。せっかくなので、立ち寄ることにする。スマートインターを降りて、1キロほどで、施設が見えてくる。

多気ヴィソンのマルシェ
多気ヴィソンのマルシェ
多気ヴィソンでは地元でとれる農産物や海産物を販売している
多気ヴィソンでは地元でとれる農産物や海産物を販売している

 東京ドーム24個分の敷地に、巨大な木造の屋根で覆われたマルシェ(産直市場)、山の斜面に階段状に建設された全室テラス付きのホテル、それに、和食や洋食が食べられる飲食エリアなどが建設されている。駐車場には「テラチャージ」の普通充電器が2基、それに、米テスラの急速充電器「スーパーチャージャー」が4基設置されていた。テラチャージの充電器は、持っていた充電カードが使えなかったので利用を断念した。

多気ヴィソンにあった「テラチャージ」の普通充電器
多気ヴィソンにあった「テラチャージ」の普通充電器

帰路の充電は計3回

 ヴィソンでは、マルシェで地元の野菜や伊勢湾の海産物などを見た後、地元の焼き魚の定食をいただき、14時少し前に出発。勢和多気ICから再び伊勢道に乗る。帰路の充電は、伊勢道につながっている①東名阪自動車道の御在所SA(ホテルから111キロ)、②新東名の清水SA(同331キロ)、③同鮎沢PA(同396キロ)で行い、休憩と食事もとりながら、東京の自宅に20時20分頃に到着した。

伊勢志摩からの帰路もヒョンデ・コナは快調に走った
伊勢志摩からの帰路もヒョンデ・コナは快調に走った

 ①御在所SAでは東光高岳の急速充電器で30分充電し、充電率は60%(航続距離164キロ)→81%(同242キロ)、②清水SAでは東光高岳の充電器で30分充電し、18%(48キロ)→48%(148キロ)に回復した。しかし、この清水SAから東京の自宅までの距離はちょうど148キロあり、このままでは電欠になってしまう。そこで、急遽、清水SAから65キロ先の③鮎沢PAで東光高岳の充電器で15分充電し、29%(84キロ)→41%(121キロ)まで充電量を回復させた。

ヒョンデ・コナは珍しいせいか、高速のSAでジロジロと眺められることが多かった(御在所SA)
ヒョンデ・コナは珍しいせいか、高速のSAでジロジロと眺められることが多かった(御在所SA)

やはり安定しない一回の充電量、読めない航続距離

 この試乗記の(上)でも指摘したが、同じ会社の急速充電器を使っても、毎回、充電できる量は違ってくる。今回も清水SAでの充電で十分かと思ったが、結局、鮎沢PAで帰路3回目の充電を強いられることになった。この航続距離の読めないところは、やはり、ガソリン車に比べたEVの不便なところだ。

帰路の電費は1キロワット時=4.6~6.1キロ

 電費は、①ホテル→多気ヴィソン(距離48キロ)で1キロワット時=4.6キロメートル、②多気ヴィソン→御在所SA(同77キロ)で同4.8キロメートル、③御在所SA→清水SA(同206キロ)で同5.2キロメートル、④清水SA→鮎沢PA(同65キロ)で同5.0キロメートル、⑤鮎沢PA→自宅(同73キロ)で同6.1キロメートルであった。

3人乗車で最大、時速120キロまで出した高速区間では、ヒョンデが公表している数字(1キロワット時=7.3キロメートル)より、電費は厳しい印象だ。⑤の区間は、下り勾配が続き、回生ブレーキによる電気の回生量も増えたので電費は6キロ台まで伸びたのだろう。

一般道と遅い高速中心だと1キロワット時=6.4キロまで向上

 ただ、月曜日の朝にヒョンデに車を返却するため、自宅から一人で首都高中央環状線と湾岸線を使って大黒PAまで44キロ走らせたときの電費は1キロワット時=6.4キロメートルであった。この時はせいぜい、時速60~80キロのペースだった。EVにとって高速よりも低速域のほうが電費は良くなる。だから、普段、街中で使う場合は、電費は公称値に近いものになると予想できる。

 土日2日間の伊勢志摩までの往復距離は、洗車したガソリンスタンドまでの往復も含めて、945キロ。その前後、金曜日と月曜日のヒョンデの横浜みなとみらいまでの受け取りと返却を含めると、1044キロに達した。

都内をゆっくりと走るのも似合う

 長距離の試乗を終え翌日、良く晴れた月曜の朝に、好きな音楽を掛けながら、都内をゆっくりと走らせたとき、改めて「コナは良い車だな」と感じた。ハワイにちなんで名付けたように、大柄なシートを備えたゆったりした内装や質の良いオーディオは、コーヒーを飲みながらゆっくりとドライブするのも似合っている気がする。給電機能もあるので、友達とキャンプ場に出かけ、電気ケトルでコーヒーを沸かすこともできる。車から自宅に給電するV2H機能もある。

ヒョンデの世界観が分かる新横浜のカスタマー体験センター

 ヒョンデの考える世界観をより良く知るには、22年7月に新横浜に開設した「ヒョンデ カスタマーエクスペリエンスセンター横浜」を訪れると良い。ここは、オンラインで購入したヒョンデ車を受け取れるほか、車検や整備を受けられる。居心地のよいソファーや木製の椅子がある2階の北欧テイストの待合室では、コーヒーを飲みながら、自分の車が整備される様子を見ることができる。リサイクル素材を使った内装など、ヒョンデの環境への取り組みが分かる展示もある。

ヒョンデの新横浜のカスタマーエクスペリエンスセンター
ヒョンデの新横浜のカスタマーエクスペリエンスセンター
ヒョンデの新横浜のカスタマーエクスペリエンスセンターの2階からは愛車の整備の様子が眺められる
ヒョンデの新横浜のカスタマーエクスペリエンスセンターの2階からは愛車の整備の様子が眺められる

フル装備で、実質380万円は「バーゲンプライス」

 日本では、まだ、ヒョンデをほとんど見ることはない。しかし、このコナは東京都で購入した場合は補助金適用後で380万円。サンルーフ、シート・ハンドルヒーター、シートベンチレーター、V2H機能、先進運転支援機能、BOSEオーディオに64キロワット時の大型バッテリーが付いてくることを考えると、驚異的なバーゲンプライスだ。欧州ブランドなら確実に700万円以上はする。実店舗がなく、オンラインでの購入に限定されることは難点ではあるが、このコナは、個人的にはかなり購入に心が傾いた一台となった。

(稲留正英・編集部)

(終わり)

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