派閥解散は「英断」か「暴走」か 裏金国会へ賭けに出た岸田首相 伊藤智永
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通常国会が始まった。自民党の派閥解散を巡り政界は大混乱。岸田文雄首相の退陣があってもおかしくない波乱必至の幕開けである。
不穏な前途への予兆は、さっそく異例の国会日程に表れた。通例なら1月26日の開会式後に行われるはずの首相による施政方針演説が30日にずれ込み、初日は儀式だけで終了。演説の前に29日、衆参両院の予算委員会で政治資金パーティー裏金事件を巡る集中審議が行われる。「当たり前のように国政を論じるより先に、まず裏金問題だ」という野党の要求をのまざるを得なかったからだ。
カギ握る無派閥コンビ
自民党国対委員長は裏金問題で辞めた旧安倍派幹部の高木毅氏から、無派閥の浜田靖一氏に代わり、出だしから対野党柔軟路線を印象づけた。この手法でどこまで野党の攻勢をしのげるかが「裏金国会」の成り行きを左右する。派閥の存廃は一見深刻そうでも、裏金問題の解明と再発防止には関係ない。今国会中の政治資金規正法改正が焦点になる。自民党が党内論議をまとめた再発防止策を作っても、率先して法改正を国会に提出する資格はない。これからまとまるだろう野党案を、極力低姿勢で受け入れるしか恐らく道はない。国対が政局運営のカギを握っている。
地味ながらキーマンと目されるのが、御法川信英国対委員長代理だ。安倍派幹部が一斉に交代した際、当初は官房長官を打診された浜田氏が、「御法川氏と一緒なら国対を引き受ける」と指名した右腕だ。共に「国対族」のベテラン。御法川氏は岸田政権発足から2年近く、高木前委員長の下でも同代理を務めた。何かとミスの目立った高木氏の不手際を取り繕ったのは、もっぱら御法川氏の手腕だったとの評価がある。
なのに昨年9月、その功労者が国対を外された。御法川氏は安倍政権時代に党内少数派グループを貪欲に取り込んだ麻生太郎副総裁の派閥に5年ほど在籍しながら、一昨年仲間と麻生派を離脱し、麻生氏の不興を買ったからだと信じられている。1年あまりでの復帰は、麻生氏との確執をはらんでいる。大魚の小骨に等しい事情だが、派閥主義の大ボスと無派閥「国対族」コンビの間の亀裂は早晩、国会運営に影を落とすだろう。今や派閥を巡る「守旧派」と「解散派」の反目は、政権の行方をも左右する火種となっている。
昨年12月、それまで「想定内の事務的ミスで片付けるだけ」とタカをくくっていた裏金問題が、一大スキャンダルへ急拡大して以来、岸田氏の危機管理は終始後手に回った。特に人事の迷走と行き詰まりは目を覆うばかりだ。
つまずきの初めは昨年9月の内閣改造・党役員人事。派閥の論理が露骨すぎて世論に嫌気が広がったところへ、裏金事件で派閥の堕落と背…
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週刊エコノミスト
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