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陰るテスラ 成長鈍化のEV市場で中国勢と競い収益力低下 河村靖史
電気自動車(EV)シフトを主導してきた米テスラの成長に暗雲が垂れこめている。1月24日に発表した2023年10~12月期連結決算は、営業利益が前年同期比47%減の20億6400万ドルと、大幅減益だった。
テスラは21年、22年と中国や欧米といった大規模市場でEVの販売を伸ばし、しかも高い収益力をあげてきた。営業利益率は21年4~6月期に11%となり、22年1~3月期には19.2%と、自動車メーカーとしては異例の利益率を実現した。一時は販売1台当たりの営業利益が100万円を大きく超えて、トヨタ自動車の8倍となるなど、自動車業界ではトップクラスの稼ぐ力を示してきた。
こうした状況が一変したのは23年に入ってからだ。1~3月期に営業利益率が11.4%となり、4~6月期には9.6%と10%を割り込んだ。営業利益が減益となったのは10~12月期で4四半期連続だ。
テスラの収益力が低下しているのは、カーボンニュートラルの追い風もあって急拡大してきたEV市場の成長が欧米で鈍化したためだ。加えて、ライバルとの競争激化で、米国や中国などで車両価格を引き下げて販売てこ入れを図り、1台当たりの利益率が低下していることが響いた。特にBYDを中心とした中国系EVメーカーが中国市場だけでなく、欧州やアジア市場に低価格EVを輸出、販売攻勢をかけている。テスラはこれに対抗するため、主力の「モデル3」などの価格を見直してきた。23年10~12月期の販売台数は約48万5000台と、前年同期比20%増となったものの、値下げの影響で売上高は同3%増にとどまった。
先行きは厳しく、10~12月期のEV販売台数で、テスラはライバルのBYDに抜かれて世界トップの座を明け渡した。BYDは今後も低価格EVの新型車を相次いで市場投入するとともに、欧州やアジアなどの各市場に販路を広げてテスラを突き放す戦略だ。
米中対立も影響
過熱化する米中の対立も懸念材料の一つだ。米国政府は24年1月からインフレ抑制法(IRA)を見直し、バッテリーの材料の一部に中国製を採用しているEVは最高7500ドル(約112万円)の補助金(税額控除)の対象外に変更した。これによってテスラのモデル3の一部グレードや、昨年11月に発売したピックアップトラックタイプのEV「サイバートラック」は補助金の対象外となった。テスラ車の販売にマイナスの影響が及ぶのは避けられない見通しだ。
さらに、中国政府は軍関係施設の周辺などでテスラ車の乗り入れを制限してきたが、政府関連施設などで、理由を明かさないまま乗り入れを制限するエリアを拡大している。不便なため、中国でのテスラ車の販売に影響すると見られている。
高い収益力を維持しながら欧米、中国でEV市場をリードし、自動車業界で一目置かれる存在になったテスラ。市場環境の急変で一転して逆風にさらされる中、どう打開していくのか、次の一手が注目される。
(河村靖史・ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2024年2月13日号掲載
FOCUS テスラの成長に陰り 欧米EV市場の成長が鈍化 中国勢との競争で収益力低下=河村靖史