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不正だらけトヨタグループ 深刻すぎる「上にモノ言えぬ開発現場」 河村靖史
トヨタグループによる不正事案の発覚が相次いでいる。トヨタ系ディーラーによる不正車検に始まり、トヨタ自動車の連結子会社である日野自動車の商用車用エンジンの認証試験での不正、トヨタ完全子会社のダイハツ工業による車両安全性を確認する認証試験での大規模な不正、そしてトヨタの源流である豊田自動織機によるエンジンの品質に関する不正が判明した。高品質と高効率を武器に成長を遂げてきたトヨタブランドは大きく傷付いている。
各社の不正は主に、完成車やエンジンの試験で、定められた手順を守らなかったり、量産車とは異なる部品やソフトを応用したり、試験をせずに測定結果の数値を改ざんしたりして、試験をパスしたことにして型式指定を取得していた。不正発覚後、日野は国内市場向けの大半のトラック・バスの出荷を停止し、大型トラックの一部の型式指定が取り消された。エンジン2機種は、型式指定の再申請もできていない。
ダイハツも大規模な不正が確認された昨年12月20日、トヨタなどに供給していたOEM(相手先ブランドによる受託生産)供給車を含めて全車両の出荷と生産を一時停止。国土交通省が基準適合性を確認した車両から生産と出荷を再開することにしているが、一部の軽自動車は型式指定取り消し処分となる見通しだ。
また、昨年3月にフォークリフト用エンジンの品質不正が発覚した豊田自動織機は、今年1月にトヨタ向けディーゼルエンジンでも不正が見つかったと発表し、トヨタはこのエンジンを搭載する「ランドクルーザー」や「ハイエース」など、10車種の出荷を停止した。
「ふーん」「それで」
各社の不正の手口はさまざまだが原因は共通している。それは開発スケジュールなどの遅れで発売日が遅れる可能性があっても、現場で対応するしかないということだ。上司に相談しても、多くが「ふーん」や「それで」と返答されるだけ。試験の数値改ざんなど、具体的な不正を指示されるわけではないものの、発売日の後ろ倒しなどに動いてくれるわけではなく、「現場は不正に手を染めるしかない状況に追い込まれる」(ダイハツ関係者)。
相次ぐ不正発覚で危機感を高めたトヨタの豊田章男会長は1月30日、名古屋市での記者会見で「私自身が責任者としてグループの変革をリードする」と述べ、「上にモノを言えない」というグループの風土改革を主導する方針を示した。
不正発覚前の日野、ダイハツ、豊田自動織機の3社は、トヨタが主導する形で、短い開発期間による新型車の集中投入や、トヨタ生産方式に代表される効率的な生産によって、トヨタとともに業績を順調に伸ばしてきた。それだけに「開発が遅れるとトヨタや会社に迷惑がかかる」「トヨタの成長戦略に水をさす」と、現場は萎縮してモノを言えなくなっていた。効率的な生産・開発をいったん止めて、成長戦略を放棄する覚悟を持ってグループの風土を変えなければ、不正の芽を完全に摘むことはできない。
(河村靖史・ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2024年2月20・27日合併号掲載
FOCUS トヨタグループの不正 開発遅れ負担が現場しわ寄せ 深刻すぎる「モノ言えぬ現場」=河村靖史