経済・企業 金融
インタビュー「金利のある世界では決済性資金の確保が鍵に」中島達・三井住友FG社長
インフレ(物価上昇)や日銀のマイナス金利解除など大きく変わろうとするマクロ環境を踏まえて、SMBCグループの経営戦略を中島達・三井住友フィナンシャルグループ社長に聞いた。(聞き手=浜條元保、構成=村田晋一郎・編集部)
―― 現状のマクロ経済環境をどう見ているか。
■インフレが2%で定着するかどうかは見極めづらいが、この春の賃上げは相当強い数字になると思う。大企業の社長と会って聞いている限りでは、かなり多くの企業が昨年以上の賃上げを行うと見ている。物価が上がってきているので、従業員の生活防衛のためにも実質ベースで所得が増える環境を作らなければいけないと多くの経営者が考えている。また、中小企業やパートタイマー、派遣労働者についても、人手不足のため賃金を上げないと人材を確保できない。そう考えると、今年は一定の賃上げが実現すると思う。
―― 米国経済の動向をどう見ているか。
■米国の消費が落ちないということに尽きると思う。米国の企業やビジネスの成長に対する自信、将来良くなるという自信があるので、多少足元が苦しくても、物価が上がっても消費を続ける。ここに米国の力強さが出ている。
―― 年初は円高を予想する見方が多かったが、足元では円安が進んでいる。
■米国の経済、消費が強くて、米国の利下げがそれほど進まないという見通しが出ていることが大きい。
―― 米国の利下げはいつごろと見ているか。
■夏前ぐらいに始まると思う。逆に日銀が利上げを1月にやらなかったのは、日銀自体が米国経済は強くて米国のインフレは簡単に下がらないと見ているからだと思う。
NISAは力強いツール
―― このようなマクロ環境の中で、今後SMBCグループをどうかじ取りしていくか。
■これからは日本も金利がついて、預金が収益を生む世界になってくる。ただし預金には決済性資金と貯蓄性資金がある。貯蓄性資金については金利が上がると、普通預金が定期預金や国債にシフトしていくと思う。ただし定期預金はおそらく金利競争も出てくるので、貯蓄性資金はそれほど大きな収益貢献はしないと思う。
大事なことは決済性の資金をいかに確保するか。便利な決済サービスを提供して、SMBCで決済を行うお客様を増やさなければいけないという思いで、個人向けにはオリーブというサービスを始めた。オリーブに入ると、クレジットカードと口座引き落としなどいろいろなものが付いてくるので、一定の金額を普通預金に置いていただける。
法人については、大企業は独自のシステムを銀行とつないだりしている。しかし、中堅・中小企業についてはまだ良い決済サービスが提供されていない。そのため、できるだけ早いうちに法人向けのデジタルプラットフォームをつくりたい。そこに決済性資金として、当座預金に一定金額をいつも置いていただく。こういう積み重ねが今後大事になってくるだろう。
―― 1月から新NISA(少額投資非課税制度)が始まった。
■NISAは非常に力強いツールになっていると思う。われわれはSBI証券と組み、SBI証券で積み立てしていただいている口座数が既に60万口座あり、非常に強い勢いで伸びている。2027年にはSBI証券とSMBC日興証券、銀行のNISA口座での積立額が年間2兆円になる計画だ。NISAはそれほどインパクトがある投資スキーム、グループでしっかり取り組んでいく。
●プロフィール●
なかしま・とおる 1963年生まれ。86年3月東京大学工学部卒、同年4月住友銀行(現三井住友銀行)入行。三井住友銀行取締役専務執行役員などを経て、2023年4月三井住友フィナンシャルグループ副社長に就任。23年12月より現職。