日本屈指の若手俳優勢の演技で、耐え難い孤独と助ける温かさ描く 野島孝一
有料記事
映画 52ヘルツのクジラたち
クジラの鳴き声は、通常10~39ヘルツの高さらしい。52ヘルツの鳴き声は、音域が高すぎてほかのクジラには聴き取れない。だから、そんな高音のクジラはほかのクジラに相手にされず、その孤独感は耐え難い。この映画は、孤独感にさいなまれる人々と、それを助けようとする人々の温かさを描いた小説が基になっている。
小説『52ヘルツのクジラたち』を書いたのは、町田そのこで、離婚して子育てをしながら書いたという。2021年の本屋大賞を受賞し、ベストセラーになった。映画化は「八日目の蟬」「ソロモンの偽証」「銀河鉄道の父」などの良心作を次々に発表してきた成島出監督が手掛けた。
亡き祖母が住んでいた海の見える家にやって来た若い女性、貴瑚(きこ)(杉咲花)は、髪を伸ばし放題にした孤独な男の子に出会う。その子は母親に虐待され、育児放棄されていた。母親のせっかんによって少年は口がきけなくなっている。母親は少年を「ムシ」と呼んだ。
海を見下ろすテラスから見る自然は美しい。だが、人間社会は痛みに満ちていて、醜さは耐え難いものがある。そんな感想を抱きながら見ていると、映画はカットバックで貴瑚の過去にさかのぼる。
貴瑚の生い立ちも悲惨なものだった。母親は貴瑚を虐待し、病気の養父の介護をさせた。見かねた貴瑚の友人、美晴(小野花梨)たちが、貴瑚を家族から引き離して独立させる。そんな友人の中にアンさんと呼ばれる青年(志尊淳)がいた。貴瑚は異性として意識するが、アンさんは友情以上のものを感じていないそぶりを貫いた。
貴瑚の職場の上司、新名主税(にいなちから)(宮沢氷魚)が、貴瑚にほれ込み、恋人と…
残り490文字(全文1190文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める