病みつつ前向きに生きる女性 韓国映画が描く社会の歪みを直視せよ 寺脇研
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映画 ビニールハウス
現在の日本と韓国は、さまざまな社会問題が酷似している。少子化は韓国、高齢化は日本が先行するなど速度の違いは多少あるにせよ、人口減、保育、介護、外国人就労……。そして何より著しい経済格差と、悩みの種は共通のものばかりだ。それに伴い、精神を病む大人が急増したり児童や老人に対する虐待が深刻化したりしているのまで似通っている。
したがって、韓国でもこれらをテーマにした映画が多数出現している。その一つである「ビニールハウス」は、精神を病み自傷行為を繰り返す中年女性が主人公である。彼女は、どうやら暴力をふるう夫のせいで非行に走ったらしい息子が少年院から出所する日を待ちわびつつ、夫が盲目、妻が重度認知症という老人家庭の訪問介護士として懸命に働いている。
母子二人のまともな住居を確保する資金を蓄えるために、極端に切り詰めた生活ぶりだ。現在のねぐらはビニール製のテント状バラックで、そこへ最小限の家財道具を持ち込んでいる。韓国は、「不動産階級社会」と呼ばれるほど住環境の格差が著しいそうで、米国アカデミー賞を受賞した「パラサイト 半地下の家族」で貧困の象徴として描かれ世界的に有名になった半地下室の住まいは、まだマシな方。農業用ならぬ住居用の「ビニールハウス」や掘っ立て小屋で暮らす人々は、富裕層の高層アパートの林立する首都ソウルにさえ少なからず存在しているという。
にもかかわらず、演技派女優キム・ソヒョン演じるヒロインは、息子と暮らすささやかな夢を諦めず前向きに生きている。仕事に手を抜かず、意識混乱で感謝どころか人殺し呼ばわりの悪態をつかれてもかいがいしく手厚い介護を施す。決して…
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週刊エコノミスト
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